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脳神経外科

脳手術における最先端のシミュレーション技術

この記事の内容

脳血管疾患の術前シミュレーション

手術を安全に行うためには、術前シミュレーションが重要です。これで手術の成否が決まるといっても過言ではありません。

これまではCTやMRI、血管撮影などの検査画像を1枚ずつ丁寧に読み解き、それぞれの情報を自分の頭の中で総合して理解する必要がありました。

しかし、近年医療用画像の技術の進歩により、それぞれの画像をすべて融合することが可能となりました。しかも融合された画像は3D化されているため、立体的に見ることができ、かつ360度自由に回転可能なので、さまざまな角度から病変(病気による生体の変化)を捉えることができます。

実際の画像を提示します。まずは、脳動静脈奇形(のうどうじょうみゃくきけい)という毛細血管が作られずに動脈と静脈が直接つながってしまう病気の術前シミュレーション画像です(図1)。異常な血管の固まりが、脳出血や痙攣(けいれん)、頭痛などの原因となるため、手術で摘出することで治療します。術中に多量出血するリスクがあり、術前の血管解剖や周囲の脳組織との関係をシミュレーションでしっかり理解することが手術成功の鍵となります。

図1 
a:椎骨(ついこつ)動脈からの血管撮影像、
b:内頸動脈からの血管撮影像、
c:aとbの血管撮影像の融合画像、
d:cに脳組織を融合した画像、
e:手術を想定した融合画像、
f:eの拡大画像、白矢印は脳動静脈奇形

次は脳動脈瘤(のうどうみゃくりゅう)という脳血管に発生する袋状の膨らみで、くも膜下出血(まくかしゅっけつ)の原因となる病気の術前シミュレーション画像です(図2)。3Dプリンターを利用し、画像データから精巧な血管モデルを作製して、術前のシミュレーションに活用しています。

図2 
a:クリップでつぶす前の動脈瘤、
b:3Dプリンターで作製したaの動脈瘤モデル、
c:クリップでつぶした後の動脈瘤、
d:3Dプリンターで作製した動脈瘤を有する血管モデル、
e:dを元に作製した中空型血管モデル、
f:実際の症例の血管撮影像、
g:中空型血管モデルの撮影像、白矢印は動脈瘤、黒点線はカテーテル

図2bが実際に作製した頭蓋骨(ずがいこつ)と血管の融合モデルです。クリップで動脈瘤を挟んでつぶす手術を予定した症例のデータから作製しました。実際に手に取ってシミュレーションできるので、モニター上で画像を見るだけに比べると、はるかにイメージしやすいです。

図2dは別の脳動脈瘤の血管モデルですが、これをもとに内部に空洞がある中空型血管モデルを作製しました(図2e)。血管モデルの中に実際にカテーテルを挿入することができるため、動脈瘤をカテーテルによって治療する際のシミュレーションに適しています。

図2fが実際の症例の血管撮影像で、図2gが中空型血管モデルの動脈瘤にカテーテルを挿入した写真です。実際の手術と同じ感覚でトレーニングでき、手技を身につけることができます。

定位機能脳手術のシミュレーション

パーキンソン病やジストニア、振戦(しんせん)といった不随意運動症(ふずいいうんどうしょう)(自分の意思とは関係なく体が勝手に動いてしまうこと)に対して、薬剤治療が不十分な場合、脳深部刺激療法(のうしんぶしげきりょうほう)が行われています。

この治療は脳深部の大脳基底核(だいのうきていかく)や視床という神経核に電極を埋め込み、弱い電流を持続的に流すことで、脳内の神経細胞の異常な活動を調整するものです。

頭蓋骨に開けた約1cm径の穴から直径約1.3㎜の電極を入れて、同時に前胸部に刺激装置を埋め込みます(図3a)。多くの患者さんで高い効果が得られますが、安全で効果的な治療のために、術前の脳機能画像シミュレーションによる詳しい検討が欠かせません。

図3 
a:脳深部刺激療法施行後のCTを3次元再構築した画像。頭蓋内に電極、前胸部に刺激装置が留置されている
b:MRIを用いた3次元シミュレーション画像
c:血管を同定するため造影CTによる血管像をMRIに融合したもの。出血のリスクを避ける
d:3方向から詳細にターゲットを検討する

近年、AIの技術を用いたソフトウエアが開発され、脳の深いところにある神経核の場所が可視化できるようになっています(図3b〜d)。

術後は刺激の調整を行いますが、これにも経験と技術が必要で、やはり先進的な神経放射線画像も参考に行います。

当院はパーキンソン病や振戦に関して豊富な手術経験があり、ジストニア治療においても有数の施設です。

執筆者

脳神経外科 総務医長・ 講師 島田 健司
脳神経外科 特任准教授 森垣 龍馬

※執筆者の所属・役職は書籍発刊時(2024年3月)のものです。

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