VRを用いた手術シミュレーション
当院では耳科手術のVR(仮想現実)シミュレーターであるVOXEL-MANを導入し、手術前にVRシミュレーションを行っています。
このシミュレーターでは、患者さんの側頭骨(そくとうこつ)CTデータから3次元画像を再構築し、専用ゴーグルを着けて患者さんの3次元側頭骨モデルを立体視しながら、画面上で手術を行うことができます。執刀医は手術前にこのVRシミュレーションを繰り返し行うことで、手術のアプローチ方法や危険部位を確認できます(写真)。
VOXEL-MANはハンドピース(手で持つ部分)のフォースフィードバック機能により、側頭骨モデルの骨を削る際のドリルの振動や抵抗を感じることができ、ハンドピースに加える力の強弱でドリルの骨を削るスピードが変わり、また出血もするように設計されています。そのため、実際の耳科手術操作の感覚に近いシミュレーションを行うことができます。
VRを用いたシミュレーションは手術前に何度も繰り返し行えるため、手術前に手順や安全性など十分な準備をしてから手術を行うことができるようになりました。
ARの活用で体に負担の少ない手術が可能に
耳科手術は側頭骨内の複雑な構造を立体的に把握し、側頭骨の深部に位置している顔面神経や三半規管(さんはんきかん)、脳などの重要な臓器を避けながら顕微鏡下にミリ単位で骨を削る必要があるため、とても繊細で難易度の高い手術です。
耳科手術では骨の中に重要な臓器が埋まっているため、これまでは骨を削らないと重要臓器を確認することができませんでした。しかし当院では、CTなどの画像データを手術用顕微鏡にリンクして表示できるAR(拡張現実)を導入しています。
ARを用いることで、人の目では認識できなかった側頭骨の深いところにある重要な臓器の位置や深さの情報を、骨を削る前からリアルタイムに執刀医の顕微鏡の画面上に映し出せるようになりました(図1、図2)。ARを用いた耳科手術の導入により、体に負担の少ない、安全で確実な耳科手術が可能となってきています。