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消化器内科

進化する胃がんの内視鏡治療~ESDの登場で大きく変化

この記事の内容

胃がんの内視鏡治療とは

早期胃がんの治療は大きく分けて、内視鏡治療と腹腔鏡手術(ふくくうきょうしゅじゅつ)を含む外科治療の2つに分かれます。内視鏡治療は簡単にいえば、お腹(なか)を切らずに治す治療です。

大部分の胃がんは小さいうちに早期で発見できれば、内視鏡治療で完全に治すことが可能です。内視鏡治療は消化管の粘膜下層(ねんまくかそう)(粘膜の下にある比較的浅い層)から切除する局所治療(その部分だけに行う治療)です。内視鏡治療の対象は、リンパ節転移のない早期がんであり、進行がんやリンパ節(せつ)転移の可能性が高いがんは対象になりません。

胃がんは通常、粘膜層(ねんまくそう)という胃のもっとも表層の部分から発生しますが、大きくなると次第に胃の壁の深い方へと根を張るように増殖していきます(これを浸潤といいます)。早期胃がんとは、がんの浸潤が粘膜下層にまでにとどまっているがんのことをいい、粘膜内(ねんまくない)がんと粘膜下層がんに分けられます。

胃の内視鏡治療は、口から内視鏡を入れて、胃の内側から行う治療ですので、胃壁の深い層まで浸潤(しんじゅん)(がんが周りに広がっていくこと)するがんやリンパ節などの胃の外の部分までは治療できません。そのため、早期胃がんの中でも比較的浅く、リンパ節転移やほかの臓器に転移していないものが内視鏡治療の対象となります。粘膜内がんでは転移がないことが知られており、内視鏡で切除することでがんが完全に切除できれば、追加の治療は必要ありません。

一方、粘膜下層がんの場合はリンパ節に転移している可能性があり、慎重な対応が必要となります。内視鏡で切除されたがんは病理検査(顕微鏡で細胞を詳細に見る検査)によって、がんの性質や深さなどを調べ、リンパ節転移の危険性を評価します。内視鏡治療のあとに、総合的にリンパ節転移の可能性が高いと判断された場合には、リンパ節郭清1(かくせい)を含めた外科的手術による追加治療を行います。

内視鏡治療の方法について

消化器内視鏡治療は、近年ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術(ないしきょうてきねんまくかそうはくりじゅつ)、図、写真1)という手術法の登場で大きく変化しました。

図 胃ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)
写真1 胃ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)

以前から広く行われている治療はEMR(内視鏡的粘膜切除術)といって、内視鏡の先から出した、投げ輪状の電気メス(スネア)を腫瘍(しゅよう)にかぶせ、締め上げるようにして高周波電流を通して切り取る方法でした。

この方法は簡単で、とても効果のある治療なのですが、スネアの中に入らないような大きな病変(病気による生体の変化)では一括切除(まとめて切り取ること)が難しいという問題がありました。

一括切除ができないと、病変が残ったり、再発しやすくなったりするほか、悪性か良性かの判断などが正確に行えないという問題が起こります。そこで考えられたのがESDという方法です。

ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)は内視鏡の先からさまざまな形の電気メス(写真2)を出して、病変の周囲を切開し、粘膜下層を剥(は)がしていくことで、大きな病変でも一括切除が可能になります。ESDは難易度の高い手技なので、当院のような高次医療機関で行われています。

写真2  胃ESDに使用されるナイフ

検診や人間ドックで内視鏡検査を

がんの早期発見のためには、定期的に検診を受けることが重要です。

ちなみに徳島県は検診の受診率が全国的にみても低い県で、多くの方に受診してほしいと思います。

検診、人間ドックの受診や近くの内科・消化器内科の先生に相談し、内視鏡検査を積極的に受けることをおすすめします(写真3、4)。

写真3、4 内視鏡センター(徳島大学病院)
  1. リンパ節郭清/がんを取り除くだけでなく、がんの周辺にあるリンパ節を切除すること ↩︎

執筆者

消化器内科 講師 岡本 耕一

※執筆者の所属・役職は書籍発刊時(2024年3月)のものです。

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