進歩を続ける肺がん診療
肺がん薬物療法は、新たな仕組みで効果を発揮する新薬が次々と登場し、治療成績が向上しています。一例として、分子標的治療薬(ぶんしひょうてきちりょうやく)があげられます。
非小細胞肺(ひしょうさいぼうはい)がんの患者さんの一部は、何らかの遺伝子が変異することで発がんにつながっています。遺伝子変異が認められた患者さんに対して、分子標的治療薬は変異した遺伝子を狙い撃ちすることで効果を発揮します。
免疫チェックポイント阻害薬も代表的な新薬です。がん患者さんの体内では、本来がん細胞を退治する役割を担う免疫細胞が、がん細胞の表面に存在するタンパク質からの信号を受け、その働きが止められています。この薬は、免疫細胞にブレーキをかける仕組みを解除することで効果を発揮します。
また肺がん診療では、薬物療法だけでなく診断技術の進歩も多くみられます。
まず、診断のためには、確実にがん組織を取る必要があります。そのときに行う気管支鏡検査では、ガイドシース併用気管支内超音波断層法1を用いることで、確実にがん組織に到達したことを確認してから生検することができ、診断率の向上につながっています。
非小細胞肺がんの場合は、得られたがん組織を使って遺伝子変異があるかないかを調べます。このとき、次世代シークエンスと呼ばれる最先端の遺伝子解析技術を用いることで、多くの遺伝子変異の有無を一度に調べることができます。
これらがん細胞の詳しい情報、がんの広がり(ステージ)、患者さんの状態を総合的に評価し、内科・外科・放射線科医が集まる肺がん合同カンファレンス(検討会)で意見を出し合って、最適と考える治療を提供します。
国際共同治験を軸に最先端の肺がん治療を
当科の特徴として、国際共同治験(新薬の効果を検証する製薬企業を主体とした臨床試験)を多く実施していることがあげられます。
免疫チェックポイント阻害薬の治験であるMYSTIC試験やNEPTUNE試験に始まり、最近ではMK-3475-A86試験、MK-7684A-003試験、PACIFIC-9試験などのほか、分子標的治療薬や制吐薬(せいとやく)(嘔吐を抑えるために処方される薬)に関する治験を多く実施するなど、総合臨床研究センターの支援を得て当院における治験を推し進めています。
国際共同治験に参加することで、国際標準の肺がん薬物療法プロトコール2を学ぶことができ、普段の診療でも国際標準レベルの考え方で肺がん薬物療法を提供できるようになると考えています。今後も新しい治療法を患者さんに届けるため、また診療のレベルを上げるため、治験治療を進めていきたいと考えています。
次世代の肺がん薬物療法の創出に向けて
肺がん薬物療法にはいまだ多くの課題が残されており、当科では次世代の肺がん薬物療法を生み出せるようさまざまな取り組みをしています。
全国規模の臨床試験グループである日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)や北東日本研究機構(NEJ)、中四国を中心としたCS-Lungなどに参加し、医師が主導する臨床試験を実施しています。
また、医薬品安全性や医薬品開発を管理する医薬品医療機器総合機構(PMDA)への国内留学を通して、質の高い臨床試験を行っていくことをめざしています。
さらに、新たな肺がん薬物療法の開発をめざして積極的に基礎研究に取り組み、『Nature Communications』や『Cell Reports』などの学術雑誌への発表や、日本医療研究開発機構(AMED)の橋渡し、研究戦略的推進プログラムの支援のもと、臨床応用を目指して橋渡し研究(トランスレーショナル・リサーチ)(図)を進めています。
当科では積極的に基礎研究に取り組み、得られた知見に基づいた新たな治療法の開発をめざし、橋渡し研究を推進しています。また国際共同治験や全国規模での医師主導試験を通して診療レベルを向上させることで、最先端治療の提供および次世代治療の創出をめざして取り組んでいます。