メニュー
放射線治療科

最適化された高精度放射線治療の展開

この記事の内容

定位放射線治療 画像診断に基づく個別化がん治療

定位放射線治療(Stereotactic Radiotherapy)は、精密な放射線を腫瘍(しゅよう)のみに集中して狙い撃つ、最先端の治療法です。この方法は、正確な位置決めと画像ガイドを組み合わせることで、腫瘍への放射線を集中させ、周囲の正常な組織への影響を最小限に抑えます。

治療は通常、数回に分けて行われ、1回当たり数分から数十分程度です。患者さんは治療中、動かないよう特別な装置で固定されますが、痛みや不快感はほとんどありません。体の負担が少ないため、外来での治療が可能です。

定位放射線治療は、脳腫瘍や小さな肺がん、肝臓の腫瘍など、内視鏡などが届きにくい位置にある腫瘍に対して特に有効です。そのため、手術が難しい、または手術ができない患者さんに行われることが多くなっています。

肺や肝臓の腫瘍に対する治療では、呼吸によって動く部位の場合、呼吸同期息止め法を用いています。この技術は、患者さんの呼吸に合わせて放射線の照射タイミングを調節し、より正確にすると同時に、正常な肺組織や他の器官への影響を小さくします。

最新の研究によると、定位放射線治療は特定の状況のもとで、これまでの放射線治療と比べて生存率を高める可能性があることが示されています。特に初期の肺がんでは、治療後5年の生存率が手術と同じくらいか、それ以上であると報告されています。

治療開始前には、放射線治療専門医が詳しい画像診断を行い、腫瘍の正確な位置と大きさを特定します。その後、一人ひとりの患者さんの状況に合わせた最適な治療計画を立てます。

次世代放射線治療装置 ヘリカルCT技術の統合

当院では2020年に新たな高精度外部放射線治療装置を導入しました(写真)。この装置はヘリカルCT技術1を応用して開発されており、主に強度変調放射線治療に用いられます。

写真 ヘリカルCT技術を応用したリニアック

これまでの放射線治療装置では、一度に治療できる範囲は最大で40cm程度でしたが、新たな装置では寝台を動かしながら照射を行うことで最大で135cmまで治療できるようになりました。

例えば、頭頸部(とうけいぶ)がんと食道がんの同時重複がんの場合、以前はそれぞれ照射プランを作成してつなぎ合わせることで治療を行っていました。しかし、プランのつなぎ目となる部分に病変がある場合では十分な線量が照射できなかったり、つなぎ目部分の線量が不安定になったりする可能性がありました。

一方、新たな装置では頭頸部から腹部までひとつながりの照射野(しょうしゃや)として治療ができるため、現在ではより高精度でスムーズな治療が行えるようになっています。また全脳全脊髄照射(ぜんのうぜんせきずいしょうしゃ)と呼ばれる頭部から臀部までの広範囲の照射も、つなぎ目をつくることなく実施できるようになりました。

ハイブリッド放射線治療とは?

当院では強度変調放射線治療(IMRT)と密封小線源治療(みっぷうしょうせんげんちりょう)を組み合わせた治療や、腔内(くうない)照射に組織内照射(そしきないしょうしゃ)を組み合わせた治療(ハイブリッド治療)も積極的に行っています。

ハイブリッド治療の目的は、これまでの放射線治療よりも病変に対して高い放射線を当てることによる治療成績の向上です。限局性前立腺(げんきょくせいぜんりつせん)がんの根治的治療である永久挿入密封小線源療法(えいきゅうそうにゅうみっ ぷうしょうせんげんりょうほう)は2003年に日本で開始され、当院でも2004年11月に開始し、すでに多くの患者さんがこの治療を受けています。

さらに、治療抵抗性(標準的な治療を行っても病気が改善しないこと)である高リスク前立腺がんに対しては、生化学的非再発率(治療後にPSA検査〈前立腺がんの可能性を調べる検査〉上で再発と診断されない確率)の向上をめざして、小線源治療にIMRTと一定期間のホルモン療法を併用するトリモダリティ治療(図1)も2012年に開始し、現在までに良好な治療成績が得られています。

図1 前立腺がんに対するトリモダリティ治療
高リスクの前立腺がんに対して、生化学的非再発率の向上をめざして、小線源療法にIMRTと一定期間のホルモン療法を併用する方法。当院では2012年に開始している。

婦人科の領域では、子宮頸がんに対して、通常の子宮の中から放射線を当てる腔内照射に加えて、腫瘍に直接針を刺す組織内照射が併用できるアプリケータを2020年に導入しました。

このハイブリッド治療のメリットは、腔内照射でカバーできない部分に組織内照射で線量を追加できることと、近くの正常臓器の線量増加を回避しつつ、病変にしっかり放射線を当てられることです(図2)。

図2 子宮頸がんに対するハイブリッド治療
子宮頸がんに対して、通常の子宮の中から放射線を当てる腔内照射に加え、腫瘍に直接針を刺す組織内照射の併用が可能になるアプリケータを導入。腔内照射でカバーできない部分に組織内照射で線量を追加できるなどの利点がある。
  1. ヘリカルCT技術/らせん状に撮影データを連続収集し、広範囲を高速に撮影できる技術 ↩︎

執筆者

放射線治療科 副診療科長・准教授 川中 崇
放射線治療科 外来医長・講師 久保 亜貴子
放射線治療科 総務医長・助教 外礒 千智

※執筆者の所属・役職は書籍発刊時(2024年3月)のものです。

この記事をシェアする
この記事の内容