がんゲノム医療(がん遺伝子パネル検査)とは
がんゲノム医療とは、がんの遺伝子を調べて、その人に合った治療法を選ぶ医療です。
がんは、遺伝子が傷つくことで起こります。遺伝子には、体の働きを決めるタンパク質を作る情報が書かれています。遺伝子に傷が入ると、タンパク質の作り方が変わってしまい、細胞が正常に働かなくなります。すると、がん細胞ができてしまうのです。
がんゲノム医療では、がん細胞の遺伝子を検査して、どの遺伝子に傷が入っているかを調べます。この検査を「がん遺伝子パネル検査」と呼びます(図1)。
この検査では、100種類以上のがんに関係する遺伝子を一度に調べることができます。検査の結果、遺伝子に傷が見つかった場合、その傷に合わせた薬を使うことで、治療効果が高まる可能性があります。このような薬を分子標的治療薬(ぶんしひょうてきちりょうやく)と呼びます。
分子標的治療薬は、特定の遺伝子の傷に対して効くように作られた薬です。がん細胞だけを攻撃するため、一般的な抗がん剤よりも副作用が少ないという特徴もあります。
がん遺伝子パネル検査を受けるには
がんのゲノム医療を受けることができる人は、以下の条件を満たす人です。
がんの種類は、臓器にできる固形がんであること。血液のがんは対象外です。治療の状況は、標準治療がないか、終了したか、終了見込みであること。全身状態は、良好であること。主治医が判断する基準を満たしていること。これらの条件を満たす場合には、保険診療でがんのゲノム医療を受けることができます。
保険診療では、がん遺伝子パネル検査の費用は3割負担で16.8万円です。条件を満たさない場合でも、自由診療でがんのゲノム医療を受けることも可能です。
自由診療では、がん遺伝子パネル検査の費用は40万~100万円程度かかります。また、検査結果をもとに選ばれた治療薬も自由診療になる場合が多いです(図2)。
ちなみに、がんのゲノム医療を受けることができる病院は、当院を含め、全国に253か所あります(2023年11月現在)。
がん遺伝子パネル検査を受ける際の注意点
がんゲノム医療は万能ではありません。検査を受けても、遺伝子に傷が見つからない場合や、見つかっても使える薬がない場合もあります。また使える薬があっても、必ずしも効果があるとは限りません。
現在、保険診療で行えるのは、標準治療が終わったり効かなくなったりした場合だけです。その場合でも、治験や先進医療などの臨床研究に参加する必要があることもあります。今のところ、がん遺伝子パネル検査を受けて、自分に合う薬の使用(臨床試験を含む)に結びつく人は全体の10%程度といわれています。
また、がん遺伝子パネル検査によって、がんになりやすい遺伝子を持っていることが分かる場合があります。これを「二次的所見」と呼びます。
二次的所見は、今すぐに病気になるというわけではありませんが、将来の健康に影響する可能性があります。二次的所見は、知りたくない人もいるかもしれません。その場合は、結果を聞かなくても大丈夫です。一方、知りたい人もいるかもしれません。その場合も、結果をよく理解できるように、病院の専門家が相談に乗ってくれます。
がんゲノム医療は、まだ新しい医療です。今後はより多くの遺伝子やゲノムを調べることで、より精度の高い診断や予後予測が行われることや、より多くの分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害薬などの新しい治療法が開発されることが期待されています。