胸腹骨盤部における精密なロボット支援手術
これまでは多くの手術が、大きく切開する開胸手術や開腹手術でした。体への負担は大きく、出血量も比較的多く、術後の痛みが強いためになかなかベッドから起き上がれないことが多くありました。その後、皮膚に小さな傷を開けて、ポートという筒状のものを体に埋め込み、このポートを通してカメラを体の中に入れて手術を行う胸腔鏡手術(きょうくうきょうしゅじゅつ)や腹腔鏡手術(ふくくうきょうしゅじゅつ)が導入されました。
この鏡視下手術(きょうしかしゅじゅつ)は、傷が小さく、通常、出血量や痛みも少なく、手術後の回復は早いというメリットがあります。しかし、まっすぐで曲がらない長い器具は操作がしにくく、高い技術が必要です。特に体の中での縫合には、さらに難しい操作が必要になります。
その後、2012年にダビンチ(写真1)を用いたロボット支援手術が前立腺がんに対して保険適応になりました。このロボット支援手術には、多くの優れた特徴があります。まず、高精度のカメラを通して、お腹(なか)の中の様子が3D(3次元)で、最大約15倍も拡大され、非常に細かなところも立体的に鮮明に観察できます。
また手術器具には関節機能があり、まるで手首のように動くことで、繊細に器具を操作することができます。さらに手が震えてもその手ぶれを防止する機能があり、手を3cm動かしても器具(鉗子(かんし))は1cmしか動かないように設定できるため、手術は繊細で、体の奥深いところにもカメラや器具が届き、糸で縫うような複雑な操作も精密にできます。
このロボット支援手術は当院では2011年に導入していますが、全国的にも急速に普及し、肺、縦隔(じゅうかく)、食道、胃、膵臓、直腸、前立腺、腎臓、膀胱、子宮の悪性疾患、心臓の弁の形成、骨盤の臓器が脱出する疾患に対する手術が保険承認されています。
このダビンチは現在、世界70か国で使用されています。また、国産ロボットのhinotori(ヒノトリ: 写真2)が開発され、当院にも導入され、さまざまな手術が保険で認められています。そのほかにも新しいロボットが開発され、ロボット手術はますます普及、発展していくものと思われます。
術者の意図した手術をロボットがサポート
整形外科の領域では、人工関節や脊椎(せきつい)の手術などに手術支援ロボットが導入されています。これらの手術では、人工関節のインプラントや脊椎を固定するためのスクリューを入れる位置や方向が成績を左右するため、とても重要ですが、これまでは術者の経験に頼る部分がありました。
現在、当院に導入されている人工股関節置換術(じんこうこかんせつちかんじゅつ)、人工膝関節置換術(じんこうしつかんせつちかんじゅつ)の支援ロボット(写真3、写真4)は以前から使われてきたナビゲーションと同等以上の精度を持ちながら、ロボット支援によるより精度の高い骨切りに加え、靱帯バランスの評価や微調整まで可能となり、その成績が期待されています。
また脊椎用ロボット(写真5)ではナビゲーションとは異なり、スクリューを入れるときにその方向をロボットが誘導することで、より正確で安全な手術が期待されています。
2024年1月現在、当院は人工股関節、人工膝関節、脊椎手術すべての手術支援ロボットが導入されている国内唯一の国立大学病院です。この特集では、各分野のスペシャリストがその詳細を解説していきます。