内視鏡下手術の利点をさらに向上
2000年代から消化器外科の領域では、これまでの開腹手術と比べて負担の少ない腹腔鏡手術(ふくくうきょうしゅじゅつ)が急速に増加してきました。
さらに近年、手術支援ロボットの登場によりロボット支援手術が消化器外科手術の中心的な役割を果たすようになってきています。2018年に胃がん・大腸がんに対するロボット支援手術が保険適用になり、当科では同年より本格的にロボット手術を導入しています(写真1)。
ロボット支援手術は、今までの内視鏡下手術の利点をさらに向上させることができる、次世代の医療改革の一端を担った分野です。3次元による正確な画像情報を取得することができ、手振れ防止機能の付いた鉗子(かんし)操作により、より精細な手術操作が可能です。これまでの手術よりも精度の高い、安全で侵襲(しんしゅう)(体への負担)の少ない手術ができるようになります。
当科には現在8名の日本内視鏡外科学会技術認定医、うち4名のロボット外科学会専門医、日本内視鏡外科学会認定プロクター(指導医)が所属し、ロボット手術を担当しています。
胃がん・大腸がんに対するロボット支援手術
2018年の保険適用以降、現在(2024年1月)までに約170例のロボット支援胃がん手術を行ってきました。当初、早期がんを対象として導入し、進行がんや、胃の機能を温存することをめざした機能温存手術(きのうおんぞんしゅじゅつ)、より難易度の高い術前化学療法(じゅつぜんかがくりょうほう)後の手術や、コンバージョン手術、残胃がん、食道胃接合部がんについてもロボット手術の適応としています。
これまでに、従来の腹腔鏡手術との比較でロボット手術の有用性を報告しており、手術手技としてはロボットの左手に超音波凝固切開装置(ちょうおんぱぎょうこせっかいそうち)を用いるLeft-handed LCS techniqueを確立しました(写真2)。
近年、ピロリ菌の除菌により上部胃がんが増えていますが、上部胃がんの噴門側胃切除(ふんもんがわいせつじょ)・胃全摘においては胃脾間膜処理(いひかんまくしょり)や再建が難しいとされています。当科では、胃脾間膜処理をより安全、簡便にする挟み撃ち法(Pincer approach)を開発しました。再建には、狭窄(きょうさく)・逆流の少ない食道残胃吻合法(しょくどうざんいふんごうほう)を行っています。
これまで手術支援ロボット・ダビンチを用いた手術を行ってきましたが、2023年9月からは国産ロボット hinotoriを用いた胃がん手術を開始しています(写真3、4)。消化器外科領域の手術に新たな手術支援ロボットが使用できるようになれば、選択肢が増え、患者さんにより安全で高度な医療を提供することにつながります。
大腸がんについては、現在(同)までに結腸がん、直腸がんを合わせて220例に対してロボット手術を実施してきました。特に難しいとされている肛門に近い直腸に発生した下部直腸がんに対して、当科では経肛門直腸間膜切除術(けいこうもんちょくちょうかんまくせつじょじゅつ)(TaTME)とロボット手術を同時に行うハイブリッド手術を実施しています。
また、前立腺や膣に広がった局所進行下部直腸(きょくしょしんこうかぶちょくちょう)がんに対するロボットを用いた拡大手術にも積極的に取り組み、骨盤内臓全摘術や、前立腺・膣合併切除(ちつがっぺいせつじょ)を行い良好な成績を収めています。
肝胆膵がんに対するロボット支援手術
当科では、肝胆膵(かんたんすい)高度技能指導医・専門医5名を配し、年間平均約60~80例、年間平均約20~40例の膵切除術(すいせつじょじゅつ)を行い、近年は腹腔鏡下肝切除(ふくくうきょうかかんせつじょ)、膵切除を標準治療として実施し、良好な成績を報告してきました。
2023年からは肝腫瘍、膵腫瘍を対象としてロボット支援肝切除・膵切除を導入しています。
ロボット手術の導入によって、より安全で体に負担の少ない手術が可能となることが期待され、今後は難度の高い症例についても適応を拡大していく予定です。