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整形外科

いっそう安全で正確な整形外科手術を実現する手術支援ロボット

この記事の内容

ロボット支援でさらに安全な脊椎手術を

脊椎(せきつい)疾患の治療では、安静や内服治療(薬を摂取する治療法)などの保存療法で効果がない場合、よりよい背骨の形に矯正して固定する手術を行うことがあります。背骨の曲がりやズレが強くなってしまった場合、そのまま放置すると神経の障害などが原因で立ったり歩いたりすることが難しくなるため、脊柱矯正固定術(せきちゅうきょうせいこていじゅつ)という手術が必要となります。

特に、子どもの脊柱変形を扱う脊椎外科医は全国的に少ないこともあり、当院には徳島県内だけでなく、四国はもとより、九州などからも患者さんが来院されています。

脊柱矯正固定術は曲がった背骨の一つひとつにスクリュー(ボルト)を設置し、それをロッド(金属の棒)に締結することで正常な位置・角度に矯正して固定するものです。当科では、2022年4月より背骨にかかる手術に手術支援ロボットアームCirq(サーク)を導入しており、脊椎手術に用いています(写真1)。

写真1 手術支援ロボットアームCirq(サーク)
(BLAINLABホームページより)

サークは、スクリューを設置するための骨孔(こつこう)(骨に開ける穴)を開ける手助けをしてくれます(写真2)。背骨の周辺には、脊髄や大動脈が通っているとともに、手術を要する骨には変形が見られることもあり、難易度の高い手術です。

写真2 ロボット支援下スクリュー挿入の術中風景

特に子どもの骨は小さいため、さらに注意が必要です。これまで手の感触を頼りに手術していたところを、CTで術中の実際の画像を見ながら手術支援ロボットのアームを使うことで、手ぶれがなくナビゲーションガイドで狙った位置に骨孔を開けられるようになり、より安全・確実に手術を行うことが可能となっています(写真3)。

写真3 術中CTナビゲーション プランニング画面

正確な人工関節手術を可能にする手術支援ロボット

股関節(こかんせつ)や膝関節(しつかんせつ)の痛みに悩まされる人は多いですが、その痛みの原因として最も多いのが変形性関節症(へんけいせいかんせつしょう)です。

変形性関節症とは、関節のクッションの役割をしている軟骨が、加齢による筋肉量の低下や使い過ぎによってすり減り、痛みが生じる病気です。内服治療やリハビリテーションを行っても痛みが治まらなくなると人工関節に入れかえる手術の適応になります。手術支援ロボットは、人工関節の「正確な設置」をサポートします。

人工股関節の「正確な設置」は、術後に股関節が外れてしまう脱臼を防ぐために非常に重要です。日本で初めて承認された整形外科ロボティックアーム手術支援システムMako(メイコー)は、術前にCT検査で得られたデータに基づいて、人工関節を設置する位置やサイズ、骨を削る深さなどを3次元的(立体的)に計画することを可能にします(写真4)。

写真4 股関節ロボットMako(メイコー)

メイコーのロボティックアームは、傷んだ骨を削るときや、人工関節を設置するときに人の手のようにぶれることがなく、正確に動き、また止まることができ、計画通りの安全で「正確な設置」を可能にします。

人工膝関節の手術は国内外で多く実施されていますが、膝の動きに違和感や痛みが残ることが問題とされ、これまでの研究で「正確な設置」が術後の満足度に関連することが報告されています。

CORI(コリ)はナビゲーションシステムの技術を応用し、赤外線カメラを使用して手術中に骨や靱帯(じんたい)の位置情報をスキャンし、人工関節を設置する位置や角度だけでなく、関節を支える靱帯のバランスを数値化することで、患者さん一人ひとりに合わせた人工膝関節の「正確な設置」を行うことを可能にします(写真5)。

写真5 膝関節ロボットCORI(コリ)

さらに、骨を削るためのドリルは、削る予定のない部分に差しかかると回転をストップさせたり、ドリル先をガードの中にしまったりして、安全な手術を実現します。

執筆者

整形外科 外来医長・特任准教授 山下 一太
整形外科 特任准教授 和田 佳三

※執筆者の所属・役職は書籍発刊時(2024年3月)のものです。

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