メニュー
脳神経内科

これからのゲノム医療

この記事の内容

難病患者に対するゲノム医療とは?

厚生労働省の指定する難病には340以上の病気がありますが、原因はさまざまです。その一つに遺伝子異常があります。遺伝子異常によって親と同じ病気を子どもが発症する場合(顕性遺伝(けんせいいでん))や、両親がいとこ婚をすることによって子どもが病気を発症する場合(潜性遺伝(せんせいいでん))などがあります。

これらの多くはすでに原因遺伝子が解明され、遺伝カウンセリングも当院で長年にわたり実施しています。ゲノム解析技術の進歩によって、これまで未解明だった原因遺伝子が続々と明らかになっています。

さらに遺伝子異常がどのような仕組みで病気を発症させているかも解明されつつあり、いくつかの疾患ではその仕組みに合わせた治療法(遺伝子治療、核酸医薬)も開発されています。

神経筋の難病の中では、デュシェンヌ型筋ジストロフィーや脊髄性筋萎縮症(せきずいせいきんいしゅくしょう)の治療薬が保険適用になっています。さらに治療が難しい筋萎縮性側索硬化症(きんいしゅくせいそくさくこうかしょう)(ALS)の一部の遺伝子異常に対しても治療薬が海外では承認され、日本での保険適用が期待されています。

受精卵の段階で遺伝子検査を実施し、遺伝子異常のない可能性が高い受精卵を人工授精する方法を着床前診断(ちゃくしょうぜんしんだん)といいます。これまで着床前診断は原則として小児期から重い症状の出る病気についてのみ認められていましたが、現在は成人後に発症する病気にも対象が広がっています。

難病に限らず多くの病気は一つの遺伝子ではなく多くの遺伝子がかかわることで発症が決まっていることが分かってきました。今後は病気のなりやすさ、薬の効きやすさ、副作用の出やすさなども解明され、臨床の現場で役立つことが期待されています。

このように難病に関するゲノム医療のかかわりは多くの分野にわたりますが、当院のゲノム医療センターは各診療科と連携して幅広いニーズに対応しています(図)。

図 徳島大学病院ゲノム医療センターの役割
※2 IRUD/未診断疾患イニシアチブ「難病克服プロジェクト」のもと推進される研究開発プログラム

がん患者に対するゲノム医療とは?

がんに対するゲノム情報の活用はここ数年で急速に普及しました。遺伝するがん(遺伝性腫瘍(いでんせいしゅよう))では、患者さん本人だけでなく、その家族も対象としてゲノム情報が解析され、早期診断や発症リスクの評価が行われ、がんを発症したときには治療法の選択にも大いに役立てられています。

がんをただ単に、ある臓器のある細胞が無限に増殖するようになるという現象として捉えるのではなく、その根底にある病気の成り立ちを理解するうえでもゲノム情報が欠かせないものになってきています。その結果、さまざまながんにきわめて有効性の高い新しい治療薬が次々に開発されています。

遺伝しないがんも、突然変異で多くの遺伝子変異が段階的に生じていることが分かっていて、何の遺伝子に変異があるかによって、より効きやすい治療薬を選択できる時代になっています。

がんの遺伝子変異は、がん遺伝子パネル検査1によって調べられます。一方で、見つかってくる遺伝子変異はとても多いため、がんに関連する変異なのか関係ない変異なのかを判断するのは難しい場合もあります。当院では、がん診療連携センターで定期的に専門家による判定会議(がんゲノムエキスパートパネル)を開いて、症例ごとに慎重に判断をしています。さらに、検査の結果、遺伝するがんの原因となる変異が見つかることもあります。その場合には、ゲノム医療センターで定期的に開く遺伝性腫瘍カンファレンスで詳しく検討しています。

このように、ゲノム情報に基づくがんの治療はきわめて有用ではありますが、それと同時に高い専門性を必要とします。当院では、がん診療連携センターとゲノム医療センターが中心となって、高度に先進的ながんゲノム医療を提供しています。

  1. がん遺伝子パネル検査/がん細胞に起きている遺伝子の変化を調べ、がんの特徴を知るための検査(「さらなる進化が期待されるがんのゲノム医療」参照) ↩︎

執筆者

脳神経内科 診療科長・教授 和泉 唯信

※執筆者の所属・役職は書籍発刊時(2024年3月)のものです。

この記事をシェアする
この記事の内容