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循環器内科

遺伝子治療による血管再生療法

この記事の内容

治療対象となる慢性動脈閉塞症とは?

血管の老化に伴う動脈硬化や血管炎症で、血管が狭窄(きょうさく)(狭くなる)・閉塞(へいそく)する(塞がる)慢性動脈閉塞症(まんせいどうみゃくへいそくしょう)と呼ばれる病気として、閉塞性動脈硬化症(へい そくせいどうみゃくこうかしょう)やバージャー病があります。

初期症状は、足の冷感やしびれから始まり、血管の狭窄が進行してくると歩くときにふくらはぎや太ももが重くなってきたり、痛みを感じたりするようになり、ひと休みすると症状が改善し、再び歩くことができる間欠性跛行(かんけつせいはこう)という症状が現れます。さらに病気が進行すると、安静時でも足の痛みが出て、痛みで眠れなかったり、足先に潰瘍(かいよう)ができて壊死(えし)に陥ったりすることもあります。

これまでの治療法としては、血液をサラサラにする抗血栓薬(こうけっせんやく)や血管を広げる血管拡張薬治療、カテーテルという細い管を用いて血管を風船で広げたり、ステントと呼ばれる金属の筒を用いて血管を広げたりする血管内治療、またバイパス手術で血管をつなげる治療法があります。しかし、これらの治療を行っても十分な効果が得られず、病状が進行してしまうと、足の潰瘍が悪化し、最悪の場合には足を切断しなければなりませんでした。

新しい血管を作る遺伝子治療とは?

2020年から、これまでの治療を十分に行っても足先の潰瘍が治らない慢性動脈閉塞症に対して、日本初の遺伝子治療薬が限定的に使用できるようになりました。

治療方法としては、強力な血管新生作用(新しい血管が作られること)がある肝細胞(かんさいぼう)増殖(ぞうしょく)因子(いんし)を作り出すDNAをプラスミドという遺伝子の運び屋に組み込んで、それを足に筋肉注射で投与します(図、写真)。筋肉細胞内に入り込んだプラスミドは肝細胞増殖因子の産生や分泌を促し、その筋肉で新しい血管を再生させます。つまりこの治療法は、血管再生を促す遺伝子を足に直接投与することで、足の血流を増加させ、血流不足で生じていた足の潰瘍を小さくして治すことをめざす治療法です。

図 遺伝子治療の方法
写真 実際の治療の様子:エコーを見ながら足の筋肉に注射する

この最先端の治療を行うことのできる施設は全国でも限られています。この治療を行うには適応条件がありますが、足の痛みや潰瘍が気になるときは、担当の先生と相談して専門病院を受診することをおすすめします。

執筆者

循環器内科 特任教授 八木 秀介

※執筆者の所属・役職は書籍発刊時(2024年3月)のものです。

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