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脳神経内科

神経難病に対する新しい診断法と治療の開発に挑む

この記事の内容

筋萎縮性側索硬化症(ALS)の診断と新規治療

神経難病には多くの病気がありますが、その中には治療法が確立しているものと治療法が十分でなく開発中のものがあります。当院では確立している治療法を適切に実施するとともに、治療法が確立していない代表的な病気である筋萎縮性側索硬化症(きんいしゅくせいそくさくこうかしょう)(ALS)とジストニアの治療開発に力を入れています。

ALSは全身の筋萎縮・筋力低下が進行する病気で、全国に約1万人の患者さんがいます。ALSは診察所見と痛みを伴う筋電図や神経伝導検査を参考にして診断しますが、当科では痛みを伴わない超音波検査を活用することで患者さんの負担を軽くするとともに早期診断を実現しています(図1)。

図1 神経筋超音波検査(イメージ)

ALSに対して現在承認されている薬の効果は限定的です。当科が中心となって実施した医師主導治験によって高用量ビタミンB12(メチルコバラミン)の有効性と安全性を確認しました(図2)。そのほかにも継続的に治験を実施するとともに、新規治療薬開発に取り組んでいます。

図2 筋萎縮性側索硬化症に対する高用量ビタミンB12(メチルコバラミン)の効果
発症早期の筋萎縮性側索硬化症患者に週2回高用量メチルコバラミンを筋肉内投与すると、その病状の進行がプラセボ投与に比べて抑制された。

ALSの患者さんには長期の療養が必要になります。当科では各地域の多職種診療チームと連携して在宅支援、長期入院、レスパイト入院1、施設入所などのお手伝いをしています。

ジストニアの診断と治療

ジストニアは、パターンを持つ体のねじれを特徴とする不随意運動(ふずいいうんどう)(体が意思とは関係なく動いてしまう状態)の一つであり、頻度の高いものとして、痙性斜頸(けいせいしゃけい)2、眼瞼痙攣(がんけんけいれん)3、書痙(しょけい)4があります。ジストニアは特に専門家の少ない病気で、診断に至るまで長い時間がかかることが少なくありません。また、ジストニアの治療は難しいと考えられていますが、当科では長年にわたる豊富なジストニア診療経験をもとに、早期診断と治療を行っています。治療はボツリヌス毒素注射5と内服治療を軸にしながら、適切なタイミングで深部脳刺激(しんぶのうしげき)6(DBS)を行うこともあります。また、当科は日本ジストニア・コンソーシアムを立ち上げ、全国の医師からのコンサルト(治療方針の相談)にも対応しています。

  1. レスパイト入院/何かの事情で一時的に在宅介護が困難になったとき、入院してもらうこと ↩︎
  2. 痙性斜頸/首や肩の周囲の筋肉が収縮し、頭、首、肩などが不自然な姿勢になってしまう状態 ↩︎
  3. 眼瞼痙攣/目の周囲の筋肉が痙攣して、瞼が開けにくくなる状態 ↩︎
  4. 書痙/手の震えや痛みが発生し、字を書くことが難しくなる状態 ↩︎
  5. ボツリヌス毒素注射/食中毒の原因菌であるボツリヌス菌が作り出す天然のタンパク質を加工して有効成分とした薬を注射する治療法 ↩︎
  6. 深部脳刺激/脳の特定の部位に細い電極を入れ、電気刺激することで症状を改善する治療法 ↩︎

執筆者

脳神経内科 診療科長・教授 和泉 唯信

※執筆者の所属・役職は書籍発刊時(2024年3月)のものです。

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