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産科婦人科

周産期領域と婦人科領域におけるゲノム医療

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当院で行われている着床前・出生前の検査

体外受精で発生した受精卵(胚(はい))の遺伝学的情報を解析し、移植する胚を選択したり、移植の順番を決定したりする方法が着床前遺伝子診断(preimplantation genetic testing: PGT)です。

PGTは目的によって、遺伝子変異による重い遺伝病を防ぐ目的で行われるPGT-M、重い遺伝性疾患を持つ赤ちゃんを出産する可能性のある染色体構造異常1の方や、均衡型染色体構造異常2が原因の習慣流産に行われるPGT-SR、着床不全や習慣流産の原因となる染色体異数性3を診断するPGT-Aに分類されます。現在は自費診療として行われていますが、今後先進医療を経て、保険診療になる可能性のある検査です。

母体血胎児染色体検査(NIPT)は、妊娠中の母親の血液中にあるDNA断片を調べることで、胎児が21トリソミー(ダウン症候群)、18トリソミー、13トリソミーなど染色体の数的異常4がある確率が高いか低いかを判定する検査です。

患者さんの体の負担が少なく精度の高い検査ですが、これだけで診断が確定する検査ではなく、不安が解決しない場合もあることから、検査前後の遺伝カウンセリングが欠かせません。当院では2013年より実施しており、徳島県の基幹施設として、遺伝診療部の専門家と連携しながら妊婦さんが安心して相談できる体制を整えています(図)。

図 当院のNIPT件数

遺伝性乳がん・卵巣がんとリスクを減らす手術

遺伝性乳がん・卵巣がん(Hereditary Breast and Ovarian Cancer: HBOC)は、BRCA1またはBRCA2という遺伝子に生まれつき変異があり、一般の人より乳がんや卵巣がんの発症リスクが高いといわれています。このため、乳がんや卵巣がんを発症する前に乳房や卵巣を切除してリスクを下げる手術や、定期的な検診を行ってがんを早期に発見することに努めます。

リスク低減卵管卵巣摘出術(ていげんらんかんらんそうてきしゅつじゅつ)(RRSO)は、HBOCと診断された場合の卵巣がん・卵管がんの発症リスクを下げることを目的に行われます。2020年4月以降は、乳がんにかかったことがあり、HBOCと診断された方に対するRRSOに健康保険が適用され、当科で2023年10月までに19人の方が手術を受けました。

手術はお腹(なか)に小さな穴を開けて腹腔鏡(ふくくうきょう)というカメラを使って行っており、体の負担が少なくて済みます。RRSOによって多くの卵巣がんが予防されますが、腹膜(ふくまく)がんのリスクが残るため、手術の後も定期的に診ていくことが必要です。

  1. 染色体構造異常/染色体の構造の一部が変化している状態 ↩︎
  2. 均衡型染色体構造異常/染色体構造異常の中で、染色体の量に問題のないもの ↩︎
  3. 染色体異数性/突然変異で一部の染色体の数が変異した状態のこと ↩︎
  4. 染色体の数的異常/本来2本ペアである染色体が3本に増えたり、1本に減ったりすることで生じる異常 ↩︎

執筆者

産科婦人科 特任講師 峯田 あゆか
産科婦人科 特任助教 湊 沙希
産科婦人科 特任助教 新垣 亮輔
産科婦人科 総務医長・講師 吉田 加奈子

※執筆者の所属・役職は書籍発刊時(2024年3月)のものです。

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