脳腫瘍のゲノム情報診断への画像応用
脳腫瘍の組織を調べるとき、WHO(世界保健機関)の分類では組織の遺伝子情報が重要な因子です。特にIDH1/IDH2の変異があるかないかは、神経膠腫(しんけいこうしゅ)と呼ばれる原発性脳腫瘍(げんぱつせいのうしゅよう)において、最も頻度の高い腫瘍で重要な因子といえます。IDH1の遺伝子変異は脳腫瘍の組織を直接採取して遺伝子を調べる必要がありますが、組織診や手術を行う前に、体を傷つけずに知るための手段がいくつかあります。
その中で、MRI(磁気共鳴画像)の検査法の一つであるMR spectroscopy(MRS)を併用することで、診断精度が飛躍的に向上します(図1)。
MRSとは、MRIにおける解剖学的な情報に加えて、脳腫瘍などの組織の中の代謝物を測定できる方法ですが、実際の臨床に応用している病院はかなり限られます。当院の放射線診断科はMRSの経験がきわめて豊富であり、特に脳腫瘍のIDHの変異の診断においては、IDHの変異によって産み出される2-hydroxyglutarateを検出するためにMEGA-PRESS法と呼ばれるシークエンスを独自に開発し、解析のための特別なプログラムを利用して、高精度にIDHの変異の診断が可能です(図2)。これによって、手術を行う前にIDHの変異を予測することができ、手術後の治療法のスムーズな選択と患者さんの管理に役立てることができます。
早期認知症のゲノム診断への画像応用
若年性アルツハイマー病の発症原因となる遺伝子として、APOE遺伝子の変異があることが知られています。特にAPOE-ε4アリルはアルツハイマー病を引き起こす要因であることが知られており、この変異がある場合、発症前から脳内の局所でミオイノシトール(mIns)と呼ばれる物質が正常な人より増加します。
このmInsは、MRSによって測定でき、当院の放射線診断科でも、早期認知症の診断をするとき、MRSを用いてmInsが上昇しているかどうかを調べています。mInsの変化を見つけ出すことでアルツハイマー病の早期診断が可能となり、今後保険適応となるアルツハイマー病の※2疾患修飾薬の選択や治療効果についても重要な情報となることが期待されます。 ※2 疾患修飾薬/病気の再発率を抑えたり、進行を遅らせたりする作用を持った薬
- IDH/イソクエン酸デヒドロゲナーゼ。遺伝子の一つ ↩︎