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食道がんに対する縦隔鏡下食道切除術
食道がんはリンパ節(せつ)への転移が多く、治すのが難しい病気の一つです。食道は喉(のど)と胃をつなぐ管(くだ)状の臓器で、その大部分は胸の中にあるため、食道がん手術では通常胸を開けて手術(開胸手術)を行う必要があります。
開胸手術は体に与える負担が大きいため、高齢者や喫煙により呼吸機能が低下している患者さんでは体力的に手術に耐えられないか、または手術の後に起こる合併症(肺炎など)が問題となっていました。
胸の中の左右の肺に挟まれた空間のことを縦隔(じゅうかく)と呼び、食道のほかにも心臓、大血管、気管・気管支、胸腺、神経などが存在しています。
狭い縦隔の中で、食道はこれらの重要な臓器に囲まれています。縦隔内は実際に見ながら手術を行うのが難しい場所でしたが、内視鏡技術をこの縦隔内に導入することで精密で細かな画像をモニターで見つつ、安全に食道がん手術(縦隔鏡下食道切除術(じゅうかくきょうかしょくどうせつじょじゅつ))を行うことができるようになりました(図1)。
当科の縦隔鏡下食道切除術と取り組み
当科では2005年から縦隔鏡下食道切除術を開始し、開胸手術の困難な患者さん、身体機能の低下した高齢者や早期がんの患者さんを対象として、これまで実績を重ねてきました。
2017年からは気縦隔法(きじゅうかくほう)(縦隔内に炭酸ガスを送り込むことで手術操作を行う空間を広げる方法)を導入し、2018年にこの手術方法が保険適用になってからは、術後合併症がますます減ることをめざした手術方法の改良に取り組んでいます(図2)。
縦隔鏡下食道切除術は難易度の高い手術であるため、実施できる施設は限られています。当科では長年にわたって蓄積された手術経験を活かし、縦隔鏡手術をより発展させられるよう、日々努力を重ねています。