直腸がんに対する手術方法の移り変わり
直腸は骨盤という狭い空間の中にあり、さらに神経や重要な臓器(男性では精嚢(せいのう)や前立腺、女性では膣や子宮)に囲まれているため、それらを傷つけずに直腸にできたがんを切除するには高度な技術が必要です。
直腸がんに対する手術は、以前はお腹(なか)を大きく開ける開腹手術が行われていましたが、1991年に日本で初めてお腹に小さな穴を空けてカメラや鉗子(かんし)(手術を行う道具)を挿入して行う腹腔鏡手術(ふくくうきょうしゅじゅつ)が行われました。腹腔鏡手術は傷が小さく痛みが少ない、術後の回復が早い、出血量が少ないなどのメリットがあり急速に増加しました。
さらに2018年にはロボットを用いた腹腔鏡手術が保険適応となり、より繊細な手術が可能となりました。しかしこれまでのお腹から行う手術では、骨盤の狭い患者さんや腫瘍の大きな症例では骨盤の奥の操作が難しいという課題がありました。
そこで、当院では骨盤の深いところ(肛門に近いところ)にできた直腸がんに対して、お腹からだけではなく、肛門からも行きつく新たな方法(経肛門(けいこうもん)アプローチ)を導入しています。
経肛門アプローチの実際
通常のお腹からの操作に加え、肛門からもカメラと鉗子を挿入し、直腸を切除していきます(図)。
肛門に近い場所にできたがんは、肛門側から見れば非常に近い位置にあるため、よく見える状態で確実にがんとの距離を保って切除することが可能となります。
さらに肛門の筋肉や、周囲の神経もよく見えるため術後の肛門機能や膀胱(ぼうこう)機能を残すことが期待されます。また、お腹からと肛門からと同時に2チームで行うため手術時間を大幅に短縮することが可能となり、患者さんの負担を減らすことができます。
当院では2018年より経肛門アプローチを導入し、これまでに約180例行っており、全国でもトップクラスの症例数を誇っています。近年ではお腹の操作をロボット支援手術で行い、それに経肛門アプローチを併用することで確実にがんを切除し、より合併症の少ない低侵襲手術(患者さんに負担の少ない手術)が可能となっています(写真)。