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そしゃく科

口腔健康管理から始めるフレイル予防

この記事の内容

口腔の働きとフレイルとの関係

 フレイルとは「生理的予備能力(心身や社会性のダメージを受けたときの回復力)が低下し、身体障害に陥りやすい状態」です。これに食欲低下による食事摂取量の減少、栄養不足といった要因が重なって悪循環に陥ることをフレイルサイクルと呼びます。歯科も食べ物や栄養の摂取、誤嚥(ごえん)性肺炎(せいはいえん)の予防といった観点から、このフレイルサイクルに大きくかかわっており、フレイル状態の悪化を防ぐためにも口腔(こうくう)(口の中)の管理はとても重要になります(図1)。

図1 フレイルとオーラルフレイル

私たちの研究でも、咀嚼(そしゃく)(食べる)、嚥下(えんげ)(飲み込む)、発音(しゃべる)といった口腔の働き、そしてオーラルフレイル(口腔の働きのわずかな衰え)とフレイルとの関連に着目しています。その関連を検討する際の重要なキーワードとして、「口腔機能低下症(こうくうきのうていかしょう)」と「口腔健康管理」があります。

 口腔機能低下症は、オーラルフレイルに対応した病名で、口腔健康管理とは、上下の歯を整える(歯列管理)、口をよく動かす、よくかむ、よくしゃべる(機能管理)、口の中をきれいに保つ(衛生管理)という3つの管理を含む考えです。当科では、この口腔健康管理の考えを30年以上前から取り入れ、臨床と研究を行っています。

口腔健康管理への取り組み

 口の中にある歯や入れ歯や被せ物、詰め物の材料の表面にはバイオフィルムという微生物の固まりが付いており、それがむし歯や歯周病だけでなく、誤嚥性肺炎などのさまざまな全身の病気に関連していることが知られています。

 当科では、このバイオフィルムをより短時間で、より効率的に落とすことのできる入れ歯洗浄剤や洗口液(せんこうえき)の研究を行ってきました(図2)。また、口腔衛生管理のためのATP(アデノシン三リン酸)拭き取り検査による口の中や入れ歯の汚れの数値化、口腔機能管理のための超音波診断装置を用いた舌の評価の開発などを進め、治療や患者さんの指導に役立てています。

図2 口腔のバイオフィルムへの効果を示す有効成分(花王との共同研究)
P.E. Kolenbrander, et al. Communication among oral bacteria/Microbiol. Mol. Biol. Rev., 66 (2002), pp. 486-505 をもとに作成

 今後も口腔健康管理がフレイルを予防するという考えのもと、オーラルフレイルの早期発見と対応、QOL(生活の質)の向上、健康寿命を伸ばすための取り組みなどを進めていきます。

執筆者

そしゃく科 助教 後藤 崇晴
そしゃく科 副診療科長・病院教授 永尾 寛
そしゃく科 診療科長・教授 市川 哲雄

※執筆者の所属・役職は書籍発刊時(2024年3月)のものです。

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