肝細胞がんとは?
肝細胞がんは、肝臓の主な細胞である肝細胞ががん化したものです。世界のがんで亡くなられた方の原因として第5位の疾患であるといわれており、まだまだ多くの患者さんが患っている病気です。
肝臓が元気な方には通常出現しないがんであり、ウイルスやアルコール飲酒、脂肪肝などによる慢性的な炎症が原因で発症することが知られています。早期発見のためには、肝機能の異常が発見された場合にしっかりと原因を調べて対処する必要があります。
肝細胞がんはどんな症状ですか?
肝細胞がんの検査・診断方法は?
肝細胞がんは基本的に画像で診断されますので、造影CTや、造影MRI、造影超音波などが重要な検査となります(写真2)。
AFPやPIVKA-2といった血液を用いて調べることができる腫瘍(しゅよう)マーカーも、肝細胞がんができているかどうかの判断材料となりますが、あくまで補助的な検査となります。
診断が難しいときには細い針を使って、直接肝臓がんから組織を採取して確認することで診断を行う場合もありますが、肝臓は血液が豊富な臓器であり、危険を伴う検査になりますので、必ず行う検査ではありません。
肝細胞がんの治療方法は?
肝細胞がんの治療は肝細胞がんの進行度と、肝臓の体力で決まります。
肝臓が元気な状態で、腫瘍の数や大きさが限られている場合は、肝切除や、ラジオ波焼灼術やマイクロ波凝固療法を用いたがんを完全になくす治療が可能ですが、がんが肝臓の中に無数に出現した場合にはカテーテルを用いてがんの栄養血管を遮断する肝動脈化学塞栓術(そくせんじゅつ)が行われます。
さらに肝動脈化学塞栓術が効かなくなった場合や、肝臓の外へ肝細胞がんが転移してしまったときには分子標的治療薬(ぶんしひょうてきちりょうやく)や、免疫チェックポイント阻害薬を用いたがん薬物療法で治療が行われることになります。
特に、近年のがん薬物療法の進歩は目覚ましく、次々と新たな薬が登場しており、これまでの薬では治療が期待できなかった患者さんに対する治療効果が期待されています。
また、がん薬物療法と肝動脈化学塞栓術との組み合わせなども高い治療効果が報告されており、新たな治療法として徐々に確立されつつあります。
肝細胞がんの予防方法は?
肝細胞がんは通常、もともと肝臓に病気がない方には発生しませんので、B型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルス、アルコール摂取、脂肪肝などによる慢性肝炎がある方に、しっかりと検査に通ってもらうことが予防につながります。
肝臓がんを含む肝疾患は病気にかかっても、ほとんど症状がありませんので、体が元気だから心配ないとはいえない病気です。
2023年に開催された第59回日本肝臓学会総会で、血液検査でALT値(肝臓の機能低下を表す指標)が30を超える患者さんに対しては、慢性肝臓病を早期発見するために専門医への受診をおすすめする「奈良宣言2023」が提唱されました。もし健康診断などの血液検査でALT値が30を超えていたら、肝臓専門医の診察を受けることをおすすめします。
消化器内科の特徴
講師 友成 哲
※所属・役職は書籍発刊時(2024年3月)のものです。
特色
当科ではできるだけ患者さんの体に負担をかけない治療を心がけています。肝臓がんの治療としては、腫瘍の数が少ない場合には細い針を使って腫瘍を治療する経皮的ラジオ波焼灼療法、マイクロ波焼灼療法などを行いますが、治療後に大きな問題がなければ3泊4日で退院が可能です。
また肝臓の中にたくさん散らばったようながんに対しては、カテーテルを用いた肝動脈化学塞栓術が治療選択肢となりますが、1週間ほどで退院することができます。
さらに、カテーテル治療が効かなくなったがんや、肝臓の外にがんが転移してしまった場合には抗がん剤治療を使った治療が中心となりますが、最近では副作用が少なく、腫瘍を小さくできる抗がん剤が登場しており、これまで治療が難しかったような患者さんに対しても有効な治療ができるようになっています。当科では、経皮的焼灼術や肝動脈化学塞栓術、抗がん剤治療などすべての診療実績が国内でも有数の施設であり、国内だけでなく世界に向けた学会発表や論文報告も積極的に行っています。
主な対象疾患
肝がん治療だけではなく、肝がん発生の原因となるC型肝炎ウイルスやB型肝炎ウイルス、また最近話題となっている脂肪肝や脂肪肝炎(NASH)に対する治療も積極的に行っています。まずは肝がんを発生させないことが重要ですので、肝臓の数値が高い方は肝臓専門医を受診することをおすすめします。