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腎臓内科

Q04:トータル・ネフロロジー ~慢性腎臓病のすべてを診て・治して・寄り添って

この記事の内容

慢性腎臓病とは?

慢性腎臓病という言葉はこの20年で広まりました。腎臓は沈黙の臓器といわれ、働きが少し悪くなっても症状が出ません。症状が出た状況ではすでに末期腎不全(まっきじんふぜん)という状態であることが少なくありません。慢性腎臓病では早期の予防、治療が重要になります。

末期腎不全では腎代替療法(じんだいたいりょうほう)すなわち血液透析(けつえきとうせき)・腹膜透析(ふくまくとうせき)・腎移植(じんいしょく)に頼らざるを得なくなります。それぞれの治療法は格段に進歩し、今では70歳や80歳のご高齢の方でも元気に治療を受けています。

慢性腎臓病はどんな症状ですか?

腎臓は機能が弱っても、初期のうちはそれを補う働き(代償する働き)が強く出て、無症状です。ここが沈黙の臓器たるゆえんです。しかしながら、この補う働きが十分でなくなると症状が現れます。

慢性腎臓病の初期症状は全身倦怠(けんたい)、食欲不振、夜間多尿などですが、特徴的なものはありません。これが、代償できない時期になると末期腎不全という状態で、浮腫(ふしゅ)(むくみ)、尿が少なくなる、呼吸困難、不整脈、かゆみ、悪心、嘔吐(おうと)など症状は多岐にわたります。これらの症状が薬で管理できなくなると、腎代替療法(血液透析・腹膜透析・腎移植)が必要となります。

慢性腎臓病の検査・診断方法は?

腎臓の傷害の最初のサインは検尿における尿タンパク、血尿そして尿産生能(にょうさんせいのう)(尿を作る能力)の低下です。尿産生能の低下は、eGFRという腎臓が尿を作る能力を示す数値の低下で診断します。早期に慢性腎臓病を診断し、原因を明らかにして対策を立てることが重要です。

慢性腎臓病はこの2つの指標(検尿所見とeGFR)を目安にその傷害の程度を診断します(表)。尿タンパクの程度で、A1からA3、eGFR低下の程度でG1からG5まであり、数値が若いほど軽症です。G3そしてA2のころに詳しい診断をし、管理、治療を始めることが重要です。

表 慢性腎臓病の重症度分類 出典:日本腎臓学会編「CKD診療ガイド2024」

私たち腎臓内科医は腎臓病の原因の追究にあたり、まず問診では、腎臓病に関連のある薬の常用、喫煙、家族歴などをお聞きします。採血ではeGFRの判断のもとになる血清クレアチニン値を検査するとともに、慢性腎臓病の原因となり得る病気が潜んでいないかを検索します。

そして高血圧、糖尿病、脂質異常症、高尿酸血症といった生活習慣病がないか、自己免疫疾患、がんが潜んでいないかを採血で検査します。画像診断では腎臓自体が萎縮(いしゅく)していないか、奇形はないか、尿の通り道に異常や閉塞(へいそく)はないかなどをチェックします。

加えて、さらに詳しく腎臓の状態を調べる目的で入院してもらい、腎生検(じんせいけん)という検査を行います(図1)。これは腎臓の組織の一部を取り、その傷害の状態を顕微鏡で確認する診断方法です。腎臓の尿を作る糸球体(しきゅたい)という部分や、尿の通り道である尿細管(にょうさいかん)という部位の状態を明らかにでき、治療へと結びつけることができます。

図1 腎生検

慢性腎臓病の治療方法は?

慢性腎臓病の治療は大きく分けて、根治(完全に治ること)をめざす治療と、進行を抑制する治療に分かれます。

根治をめざす治療としては、慢性腎臓病の原因が腎臓の炎症によって起きている場合はその炎症を抑える治療、副腎皮質ステロイドや免疫抑制剤を用いることによって根治が期待できます。

その一方で慢性腎臓病は徐々に進行し、進行速度が速い場合と遅い場合があります。この速度を遅くする治療を行います。食事療法がその第一歩で、食事のタンパク質や塩分を制限します。

次に、喫煙、運動不足などの生活習慣を改善します。最後が薬物療法で、血圧、血糖、脂質、尿酸をコントロールする薬剤を処方します。最近ではSGLT2阻害薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬など腎臓に効き、病気の進行を抑制する薬も出てきています。

慢性腎臓病の予防方法は?

まずは健診、人間ドックでの検尿やeGFRのデータをおろそかにしないことです。受診のすすめがきたら、症状がなくても一度専門医に診てもらいましょう。早期であれば慢性腎臓病は治癒可能です。

また、高血圧、糖尿病、脂質異常症などで近くの医師にかかっている方は、慢性腎臓病の合併の有無を診てもらってください。その程度によっては専門医の診察を依頼するなど、とにかく“早く”が重要です。

執筆者

腎臓内科 診療科長・教授 脇野 修

※執筆者の所属・役職は執筆当時(2024年3月)のものです。

腎臓内科の特徴

診療科長・教授 脇野 修

※所属・役職は書籍発刊時(2024年3月)のものです。

特色

当科は予防から治療まですべてをカバーできる体制を整えて慢性腎臓病に立ち向かっています。「総合腎臓病センター」(図2)を創設し、高度専門医療を提供するとともに、徳島大学病院ならではの、up-to-date な医療を展開するため以下の活動、プロジェクトを遂行しています。

  • 透析カンファレンス
  • 泌尿器科・腎臓内科カンファレンス
  • 糖尿病重症化予防入院
  • 小児・腎臓内科カンファレンス(写真)
図2 総合腎臓病センター
写真 小児・腎臓内科カンファレンス

主な対象疾患

糸球体腎炎(IgA腎症が最も多い)、ネフローゼ症候群、急速進行性腎炎(ANCA関連血管炎、抗糸球体基底膜抗体腎炎)、遺伝性腎疾患(多発性嚢胞腎など)、全身疾患に合併する腎臓病、糖尿病性腎症、腎硬化症、血液透析、腹膜透析、腎移植(泌尿器科のサポート)

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