多発性骨髄腫とは?
多発性骨髄腫(たはつせいこつずいしゅ)は、白血球の一種である形質細胞(けいしつさいぼう)が骨髄の中で腫瘍(しゅよう)のように増えていき、Mタンパクと呼ばれる異常な免疫グロブリンを作り出す血液のがんです(図1左)。高齢者に多い病気であり、わが国でも人口の高齢化に伴い発症率が増える傾向にあります。病気にかかると骨がもろくなり、腰痛などの骨痛や脊椎(せきつい)の圧迫骨折をもたらすことがあります。また異常な形質細胞の増加によって正常血球が減少し、貧血をきたすことがあり、Mタンパクの増加によって腎障害も現れます。
多発性骨髄腫はどんな症状ですか?
Mタンパクと呼ばれる異常な免疫グロブリンが増加することで、正常造血(血液が正しく送られること)が減少し、貧血や血小板減少、白血球減少が進行します。貧血による動悸や倦怠(けんたい)感、血小板減少による出血、白血球減少による易感染症(いかんせんしょう)などが現れます。
またこの病気は、脊椎、肋骨(ろっこつ)、腸骨など骨を好んで増えていくため、次第に骨が溶かされ、骨折や骨痛が起きます(図1右)。形質細胞から産まれるMタンパクが腎臓に沈着し、腎障害を起こすことがあります。
多発性骨髄腫の検査・診断方法は?
多発性骨髄腫の診断には、骨髄から骨髄液を採り出して形質細胞の割合や細胞の形態、そして遺伝子異常などを調べます。さらに血液や尿のMタンパクを免疫電気泳動(めんえきでんきえいどう)という方法で検査します。
その他、血液検査で、貧血や総タンパク、腎機能や電解質(カルシウムなど)の異常がないかを確認します。多発性骨髄腫は、腰椎圧迫骨折などの骨痛で受診される患者さんも多く、レントゲン、CT、MRI、FDG-PET╱CTなどで骨に病変がないかを調べます。
多発性骨髄腫の治療方法は?
多発性骨髄腫と診断されたからといって、すべての患者さんで治療を開始するわけではありません。診断基準を満たし、貧血、骨病変、腎障害、高カルシウム血症などの症状があれば、治療を開始します。
また治療は、①抗がん剤による根本的治療(化学療法)、②骨病変や血球減少(貧血など)による症状をやわらげるための治療(支持療法)の2つに分けられます。
①は、Mタンパクを産生している形質細胞を標的とした治療です。プロテアソーム阻害薬(ボルテゾミブ、カルフィルゾミブ、イキサゾミブ)、免疫調節薬(レナリドミド、ポマリドミド、サリドマイド)、モノクローナル抗体など多くの分子標的治療薬(ぶんしひょうてきちりょうやく)が登場し、治療成績は大幅に改善しています。
また65歳以下で心臓、肺、腎臓などの臓器機能が保たれていれば、大量の抗がん剤を併用した自家末梢血幹細胞移植(じかまっしょうけっかんさいぼういしょく)を行います。抗がん剤は、飲み薬、点滴、皮下注射などさまざまな種類があり、看護師や薬剤師と情報を共有しながら投与します。移植治療に関しては、幹細胞採取や幹細胞液の保存が必要で、臨床工学技士や検査技師と連携して診療を行っています(写真)。
②は骨病変に対する薬物療法(ビスホスホネート製剤など)、骨痛に対する疼痛緩和治療(鎮痛剤、放射線治療など)や貧血に対する輸血療法などを行います。ビスホスホネート製剤による顎骨壊死(がっこつえし)を防ぐため、歯科医師や歯科衛生士と連携し、口腔ケアを行っています。
化学療法の後の味覚障害や食欲低下に対しては、管理栄養士を中心とした栄養指導を、骨痛や長期入院による筋力低下の回復のためには、理学療法士によるリハビリテーションを積極的に行っています。
多発性骨髄腫の予防方法は?
多発性骨髄腫がどのように発症するのかはいまだに不明な部分が多く、予防が難しい病気です。貧血や腎障害など検診で偶然に発見されることもあり、定期的な検診が重要です。
また骨痛で発見されるケースも多く、原因不明の骨折や、鎮痛剤に抵抗性の腰痛などがある場合には、かかりつけ医と相談して、早めの精密検査をおすすめします。
血液内科の特徴
診療科長・病院教授 三木 浩和
※所属・役職は書籍発刊時(2024年3月)のものです。
特色
当科では、多発性骨髄腫に対する新規治療薬による治療や、自家末梢血幹細胞移植に加えて治験や臨床研究などを精力的に行っています。また徳島県内の他施設や県外の施設とも連携を図り、垣根の低い診療体制を構築しています。
さらに当科は多発性骨髄腫以外の白血病や悪性リンパ腫などの造血器疾患の患者さんを小児科と同フロアで診療しています。西病棟10階(細胞治療センター)はフロア全体が無菌管理区域かつ全個室と感染症予防を徹底しており、骨髄移植や臍帯(さいたい)血移植などが必要な患者さんを積極的に受け入れています。入院の患者さんには、医師、歯科医師、看護師など多職種連携によるチーム医療を心がけています(図2)。
主な対象疾患
悪性リンパ腫、白血病、骨髄異形成症候群、多発性骨髄腫、再生不良性貧血、アミロイドーシス、形質細胞腫など