筋萎縮性側索硬化症(きんいしゅくせいそくさくこうかしょう)(ALS)、重症筋無力症(じゅうしょうきんむりょくしょう)(MG)とは?
ALSは全身の筋力低下、筋萎縮、しゃべりにくさ、飲み込みにくさ、呼吸障害などをきたす病気です。現在の治療薬の効果が十分でないため、さまざまな方法で治療薬の開発が行われています。MGは筋肉が疲れやすくなる病気です。また、夕方になると症状が悪くなるという特徴があります。従来20歳代から40歳代の女性に多いとされていましたが、最近は高齢で発症する患者さんが男女とも増えています。近年、治療法の進歩が目覚ましく、良い状態を維持できる病気になりました。
ALS、MGはどんな症状ですか?
ALSは原因不明の疾患ですが、約1割のみ遺伝によって発症します。
男性の方が女性より多い病気で、40歳以降に発症することが多く、全身の筋力低下、筋萎縮、しゃべりにくさ(構音障害(こうおんしょうがい))、飲み込みにくさ(嚥下障害(えんげしょうがい))、呼吸障害などをきたします。
МGは免疫の異常によって発症する疾患で、多くの患者に自己抗体(自分の体の成分に対してできる抗体)を認めます。
症状はまぶたが下がってくる眼瞼下垂(がんけんかすい)、ものが二重に見える複視(ふくし)に加えて、疲れやすさ、筋力低下、構音障害、嚥下障害をきたし、重症化すれば呼吸不全になることもあります。
ALS、MGの検査・診断方法は?
ALSとMGは診察所見と検査によって診断を行います。
ALSの検査としては、神経生理学的検査(筋電図、神経伝導検査)、神経筋超音波を行います。MRI、CTといった画像検査や血液検査では診断することができません。
MGの検査は血液検査、神経生理学的検査などを行います。МGは胸腺腫(きょうせんしゅ)を合併することがあり、胸部CTも実施します。
ALS、MGの治療方法は?
ALSの治療薬は現在2剤ありますが、その効果は限定的です。そのため毎年のように治療候補薬の治験が行われています。当院はそれらの治験の豊富な経験があります。
治療薬の効果が限定的なため、リハビリテーション(理学療法、作業療法、言語療法、嚥下訓練、呼吸訓練)をしっかり行うことが大切です。飲み込みにくさがある場合、胃ろうからの経管栄養を行うことが多いです。
発語が困難になると、書字、パソコン、文字盤などの方法によって意思伝達をします。呼吸が困難になると人工呼吸器による呼吸補助を検討します。
МGは症状を緩和するための抗コリンエステラーゼ薬、副腎皮質ステロイド、免疫抑制薬などで治療します。
また重症例に対しては、免疫グロブリン大量療法や血液浄化療法を行っています。胸腺摘除術(きょうせんてきじょじゅつ)は、胸腺腫を合併している場合に行われ、胸腺腫がなくても全身型などMGの症状を踏まえて検討されます。
これらの標準的治療を行っても症状のコントロールができない場合に、分子標的治療薬(ぶんしひょうてきちりょうやく)による治療も行われます。このような治療薬の進歩により副作用の多い副腎皮質ステロイドを少量にすることが可能になっています。
ALS、MGの予防方法は?
ALS、MGとも原因不明であり、発症することを予防する方法はありません。
MGでは急激に状態が悪化して呼吸不全を呈するクリーゼといわれる状態になることがあります。このクリーゼは感染症、薬剤、ストレスなどがきっかけになることがあり、それらに注意する必要があります。
ALS、MGのサポートは?
ALS、MGは神経難病に分類されます。神経難病はALSやMG以外にもパーキンソン病、脊髄小脳変性症(せきずいしょうのうへんせいしょう)、多系統萎縮症(たけいとういしゅくしょう)、多発性硬化症(たはつせいこうかしょう)、視神経脊髄炎(ししんけいせきずいえん)スペクトラム障害、シャルコー・マリー・トゥース病、慢性炎症性脱髄性多発神経炎(まんせいえんしょうせいだつずいせいたはつしんけいえん)、筋ジストロフィー、多発性筋炎など数多くあります。
これら神経難病の患者さんが、治療や療養を続けていくために、指定難病に対する特定医療費、身体障害者手帳、傷病手当金、障害年金、介護保険によるサービスなどがあります。
患者さんごとに利用できるものが異なります。当院では、これらの治療・療養サポートについて、患者支援センターで説明・対応しています。
脳神経内科の特徴
副診療科長・講師 藤田 浩司
※所属・役職は書籍発刊時(2024年3月)のものです。
特色
- 【神経疾患に対する治療法開発】
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大学病院の使命として、さまざまな神経疾患に対する治療法の開発に携わっています。筋萎縮性側索硬化症に対して高用量メチルコバラミン(ビタミンB12)、ホスチニブの医師主導治験を行いました。
- 【ジストニアの治療】
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痙性斜頸、眼瞼痙攣、書痙、音楽家の痙攣などのジストニアに対して、内服治療、ボツリヌス毒素治療に加え、脳神経外科、パーキンソン病・ジストニア治療研究センターと共同して深部脳刺激(DBS)を行っています(「神経難病に対する新しい診断法と治療の開発に挑む」参照)。
- 【認知症の診断と治療】
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認知症の原因疾患は数多く、その診断が難しいものもあります。当科は長年にわたり認知症診療に取り組み、診断困難例にも対応しています。また放射線科、脳神経外科、精神神経科と協力してアルツハイマー病の新規治療薬(レカネマブなど)も受けていただく体制を整えました。
- 【筋電図・神経伝導検査・神経筋超音波検査】
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当科の発足当時より、筋電図・神経伝導検査に力を入れてきましたが、近年では神経筋超音波検査と組み合わせて行うことで、より正確な診断に取り組んでいます。毎週20件程度行っており、筋萎縮性側索硬化症などの神経難病から、整形外科や脳神経外科からの手根管症候群・頸椎症性神経根症の術前検査依頼まで、多くの疾患をカバーします。
- 【脳卒中センター】
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スマートフォンを用いた病院前脳卒中スケール(FAST-ED Tokushima)、灌流画像の自動迅速診断ソフトウエア(RAPIDなど)を活用し、rt-PA、血管内治療などによる治療効果の向上に取り組んでいます。
- 【脳卒中後の上肢痙縮、下肢痙縮】
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脳卒中後の痙縮に対してボツリヌス毒素治療を行っています。
主な対象疾患
- コモンディジーズ:脳卒中(脳梗塞(のうこうそく)、脳出血など)、認知症(アルツハイマー病、レビー小体型認知症、血管性認知症、前頭側頭型認知症など)、頭痛(片頭痛、緊張型頭痛、群発頭痛など)、てんかんなど
- 運動異常症:パーキンソン病、ジストニアなど
- 神経変性疾患:筋萎縮性側索硬化症、脊髄小脳変性症、多系統萎縮症など
- 末梢(まっしょう)神経疾患:ギラン・バレー症候群、慢性炎症性脱髄性多発神経炎、多巣性運動ニューロパチーなど
- 神経免疫疾患:重症筋無力症、多発性硬化症、視神経脊髄炎スペクトラム障害、筋炎など
- 神経感染症:脳炎、髄膜炎(ずいまくえん)、プリオン病など