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呼吸器外科

Q10:患者さんごとの個別化が進む肺がん外科治療

この記事の内容

肺がんとは?

肺がんは、肺を構成する気管支や肺胞の細胞ががん化したものです。日本人のがん死亡原因の第1位ですが、近年、治療法の進歩によって治療成績が向上してきています。

肺がんは、非小細胞肺(ひしょうさいぼうはい)がん(腺がん、扁平上皮(へんぺいじょうひ)がん、大細胞(だいさいぼう)がん)と小細胞肺がんに分類され、それぞれの組織型によって治療法は異なりますが、いずれの組織型でも早期の肺がんであれば手術によるがんの根治が望めるため、検診などで早期に発見することが重要です。

どのような肺がんが手術の対象になりますか?

手術は肺がんの根治(完全に治ること)を目標とした治療法なので、完全に切除できることが条件です。つまり、肺にできたがんがその部位だけにとどまっているか、転移があっても近くのリンパ節までにとどまっていることが条件で、脳や骨に転移があるような肺がんは基本的に手術の対象にはなりません。

特に、リンパ節(せつ)転移がなく、サイズも小さな(2cm以下)肺がんが、手術によって根治が期待できる症例ということになります。

そのような早期の肺がんは症状が出ないため、検診等で発見することが重要です。

肺がんの手術前にはどんな検査をしますか?

X線写真やCTで肺がんが疑われても、病変から組織を採取し、顕微鏡で確認しなければ「肺がん」と診断することはできません。

組織採取の方法としては、気管支鏡(きかんしきょう)検査やCTガイド下針生検(CT画像を確認しながら組織を採取する方法)がありますが(図1)、病変が非常に小さい場合などは、診断と治療の両方の目的で、その部位を手術で切除することもあります。

図1 気管支鏡検査とCTガイド下針生検

その他の検査としては、がんの全身への広がりを調べるために、脳MRIや、PET╱CTを行います。

それらの結果、肺がんのステージ(進行度)が決まり、手術が良いのか、薬物治療が良いのか、といった治療方針が定まってきます。

手術を行う場合、患者さんが体力的に耐えられるかどうか評価するために、血液検査や心電図検査、心臓超音波検査、呼吸機能検査なども行います。

肺がんの手術はどのように行うのですか?

ほとんどの患者さんに対して、手術支援ロボットや胸腔鏡(きょうくうきょう)といった内視鏡を用いた手術を行っています。傷が小さく痛みが少ない分、手術後の回復も早いのが特徴です。

それよりも大切なのが、どれだけ肺を切除するかという点です。肺を大きく切除すれば、それだけがんを根治できる可能性は高まりますが、息切れが強くなるなど、術後の生活に支障をきたすこともあります。

最近では、肺がんが小さければ、できるだけ肺を残す手術を行うことが主流になってきています。以前は、肺がんに対しては(房の一つを切り離す)肺葉切除(はいようせつじょ)が行われることが一般的でしたが、2cm以下の早期肺がんに対しては、肺部分切除、肺区域切除が選択されることが多くなりました(図2)。

図2 肺がん手術の切除範囲

患者さんごとの肺がんの状態や、体力に応じて、より個別化した手術方法が選択される時代になっています。

肺がんの手術の後に抗がん剤を投与することはありますか?

肺がんが2cm以上の場合は飲み薬の抗がん剤を、術後の組織検査でリンパ節転移が判明した場合は点滴の抗がん剤をおすすめする場合があります。

最近では、切除した肺がんを遺伝子検査などに提出し、その結果によって術後に分子標的治療薬(ぶんしひょうてきちりょうやく)の内服や、免疫チェックポイント阻害薬の点滴をおすすめすることもあります。

いずれも進行したステージの患者さんに向けた再発を抑えるための追加治療ですが、患者さんごとに治療を細かく使い分けることで治療成績は着実に向上してきています。

また、進行した肺がん患者さんに対しては、術前に抗がん剤と免疫チェックポイント阻害薬による治療を行うことで治療成績が向上することが最近示されました。この術前治療後の切除肺を顕微鏡で調べると、がん細胞がすべて死滅していることもあります。

これらの薬には副作用もありますので、患者さんの状態をみながら治療を進めていく必要があります。

執筆者

呼吸器外科 診療科長・教授 滝沢 宏光

※執筆者の所属・役職は書籍発刊時(2024年3月)のものです。

呼吸器外科の特徴

診療科長・教授 滝沢 宏光

※所属・役職は書籍発刊時(2024年3月)のものです。

特色

当科は7名の呼吸器外科専門医が在籍し、質の高い外科治療を提供しています。診断にも力を入れており、当科で行う最新機器を駆使した気管支鏡検査は診断精度が高いことが特徴です。

年間約250例の手術を行っており、手術支援ロボットや胸腔鏡を用いることで、傷が小さく体への負担の少ない手術を行っています。術中に同定することが難しい小さな肺がんに対して手術を行う際には、徳島大学で開発された「経気管支マイクロコイル留置によるマーキング法」を行い、確実な病変の切除を行っています。

主な対象疾患

肺がん、転移性肺腫瘍、縦隔腫瘍、胸壁腫瘍、気胸、膿胸、漏斗胸(ろうときょう)、手掌腋多汗症など

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