小児鼠径ヘルニア(脱腸)とは?
子どもの鼠径(そけい)ヘルニアは男児に多く、右側に多い一方で、10~20%は両側性に発症します。一般的に乳児期に発症し、激しく泣いた後に鼠径部(股の付け根)から陰嚢(いんのう)にかけての膨らみで気がつきます。この膨らみは、安静時には消失することが多く、膨らんだり引っ込んだりするのが特徴です。また、膨らみがあっても痛みはありません。時に学童期になって初めて発症する子どももいます。原因は先天性で、手術が必要であり、子どもで手術が必要な疾患の中では最も頻度が高いのが特徴です。
「鼠径ヘルニア」はどんな症状ですか?
一般的に乳児期に発症し、激しく泣いた後に鼠径部(股の付け根)から陰嚢にかけての膨らみで気がつきます(図1)。
膨らみは安静にしている時には消えることが多く、膨らんだり引っ込んだりするのが特徴です。また痛みはなく、学童期になって初めて発症する子どももいます。
原因は、胎児期の精巣や卵巣の下降に際して、鼠径部にできる腹膜(ふくまく)鞘状(しょうじょう)突起(とっき)と呼ばれる袋(女児の場合はヌック管)が閉鎖しないことによります。
正常な場合には、腹膜鞘状突起は胎児後半に消えてなくなりますが、何らかの原因で消失せずに出生すると、ヘルニア嚢(のう)を有する鼠径ヘルニアや、ヘルニア嚢の途中がくびれた精索水瘤(せいさくすいりゅう)や陰嚢水瘤(いんのうすいりゅう)と呼ばれる水のたまった袋が生じます。鼠径ヘルニアは、このヘルニア嚢の中に腸管(女児の場合、卵巣や卵管が脱出する場合あり)が脱出することにより、鼠径部が膨らむことで起こります(図2)。
「鼠径ヘルニア」の検査・診断方法は?
特別な検査は必要なく、診察で鼠径部の膨らみが確認できれば、診断は可能です。腸管の脱出が不明瞭な場合や、卵巣が脱出している場合には超音波検査も行います。
「鼠径ヘルニア」の手術時期は?
鼠径ヘルニアは自然に治るものは少なく、また乳児期の鼠径ヘルニアは嵌頓(かんとん)(腸管の血流障害)を起こすことが多く、現在は比較的早期に手術が行われることが多くなっています。
また、鼠径部や陰嚢に生じる精索水瘤や陰嚢水瘤に関しては、2歳半ごろまでは自然に治ることが期待できるため経過をみて、消失しなければ2歳半以降に鼠径ヘルニアと同じ手術が必要です。
「鼠径ヘルニア」の手術法は?
小児の鼠径ヘルニアは、高齢者の鼠径ヘルニアと違い、先天的にヘルニア嚢が残ることが原因のため、手術は、ヘルニア嚢の単純高位結紮(たんじゅんこういけっさく)(ヘルニア嚢の根元を糸でしばる)のみでよいとされています(図3)。
現在、小児鼠径ヘルニアに対する手術法としては、2通りの手技があります。一つは、昔から行われている術式(従来法)で、下腹部に1.5~2cmの皮膚切開を加え、鼠径管を開放し、ヘルニア嚢から精管、精巣血管を剥離(はくり)し、ヘルニア嚢の高位結紮を行う手術です。
もう一つは、腹腔(ふくくう)鏡下鼠径(きょうかそけい)ヘルニア根治術(図4)で、臍(へそ)から径3~4mmの腹腔鏡を挿入し、炭酸ガスによる気腹(お腹(なか)を膨らませる)後に、臍の左方から径2mmの細径鉗子(さいけいかんし)(挾むための細い器具)を挿入します。そして径1.5mmの特殊な糸付き穿刺針(せんししん)を用いてヘルニア嚢の全周に糸を通し、高位結紮を行う手術です。
こうした腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術の利点は、傷が小さい(術後の痛みが少ない)こと、反対側の鼠径ヘルニアの有無を確認でき、あるようなら両側とも1回の手術で閉鎖することができることなどがあげられます。
現在この手術は、手術時間、入院日数、再発率、合併症の頻度などは、従来法と比べてほぼ同じであり、全国の小児外科専門施設で普及しています。子どもの鼠径ヘルニアの標準術式になりつつあります。
小児外科・小児内視鏡外科の特徴
診療科長・病院教授 石橋 広樹
※所属・役職は書籍発刊時(2024年3月)のものです。
特色
体にやさしい子どもの鼠径ヘルニアに対する腹腔鏡下手術は、1995年に本院で考案された手術法で、今では全国に広がり、多くの患者さんが少ない負担で治療を受けることができるようになりました。当院は徳島県で唯一の日本小児外科学会認定施設であり、今までに2,000例以上の小児鼠径ヘルニアの腹腔鏡下手術を行い、年間約100名の鼠径ヘルニアの患者さんを受け入れています(2024年1月現在)。
また、子どもの手術全般にわたり、内視鏡下手術(体に負担の少ない手術)を積極的に導入しています。そして、新生児から15歳までの子どもの特性を十分熟知した小児外科専門医、指導医、日本内視鏡外科学会技術認定医(小児外科)が常勤しています。
主な対象疾患
鼠径ヘルニア、臍ヘルニア、停留精巣、舌小帯短縮症(ぜつしょうたいたんしゅくしょう)、急性虫垂炎、漏斗胸、小児泌尿器科疾患(水腎症、膀胱(ぼうこう)尿管逆流症など)、新生児小児外科疾患(食道閉鎖、小腸閉鎖、横隔膜ヘルニア、鎖肛、ヒルシュスプルング病など)