メニュー
整形外科

Q16:多職種チームで立ち向かう骨・軟部腫瘍の診療

この記事の内容

骨・軟部腫瘍とは?

骨(こつ)・軟部腫瘍(なんぶしゅよう)とは骨や軟部(筋肉、脂肪など)からできた腫瘍です。骨や軟部そのものからできたものは原発性(げんぱつせい)といい、悪性は肉腫と呼ばれます。肉腫はまれな腫瘍で、治療法が限られています。ほかのがんから骨や軟部に生着したものは転移性といいます。

がん治療の発達で寿命が延びたこともあり、転移による痛みや麻痺(まひ)で困る人も増えています。いろいろな専門の職種の集まり(多職種チーム)で話し合うことの重要性が認識されつつあります。

骨・軟部腫瘍はどんな症状ですか?

骨腫瘍の最初の症状は痛みやしこりです。軟部腫瘍は悪性でも痛みがあまりなく、しこりで気づくことがほとんどです。検診や別の病気の検査で撮った画像で偶然に発見されることもあります。転移性骨腫瘍では、がんが骨を壊したり、神経が圧迫したりすれば、手が使いづらくなったり、歩くことが難しくなったりします。

骨・軟部腫瘍の検査・診断方法は?

詳細に病歴を聞いたうえで、しこりの場所、痛み、関節の動き、筋力、感覚などについての診察を行います。単純X線写真の撮影を行い、必要に応じてMRI(磁気共鳴画像)やCT(コンピュータ断層撮影)などを行います。画像のみでの判断が難しい場合には実際の生(なま)の検体を一部採取する「生検」を行って、どんな腫瘍であるか診断します。

骨・軟部腫瘍の治療方法は?

良性の骨・軟部腫瘍は腫瘍のみをとる辺縁切除(へんえんせつじょ)が主な治療方法です。良性骨腫瘍では、正常な骨を残して腫瘍を掻き出して骨を移植する掻爬(そうは)・骨移植術(図1)を行うこともあります。図1では手術で移植した人工骨が徐々に自分の骨に置き換わっていく様子が分かると思います。

図1 掻爬・骨移植術

良性と分かっていて、特に症状がない場合には経過をみるだけのこともあります。肉腫(原発性悪性骨・軟部腫瘍)では完全に取りきる必要があるため、正常組織ごと腫瘍を切除する広範切除術を行います(図2)。化学療法や放射線治療も状況に応じて行います。

図2 広範切除術

肉腫は10万人当たり2~3人と非常に少ないうえ、骨や筋肉は体のどこにでもあり、あらゆる場所にできます。従って一つの科だけで解決できないことも少なくありません。

当科では院内に関係するすべての科で肉腫をどう治療していくかを話し合う場所としてサルコーマ(肉腫)カンファレンスを設けています(写真)。

写真 サルコーマカンファレンスの模様

いろいろな専門の職種でチームをつくって話し合うことで、まれな疾患もお互いに共有することができ、対応できる幅も大きくなります。

転移性骨腫瘍の患者さんには、がんの広がりに応じて、腫瘍を取りきって人工物に置き換える手術から、腫瘍を取りきらずに骨を金属で固定したり(図3)、神経の圧迫を解除したりすることで症状を緩和するような手術を考えます。

図3 転移性骨腫瘍に対する内固定術

患者さんのがんの状態や生活の状況を考える必要がありますので、がんをもともと診ていた科の先生、リハビリテーション部、地域の看護師やケアマネージャーなど多くの人との話し合いが大切です。転移性骨腫瘍についても多職種チームで取り組むことの重要性が認識されています。

肉腫はまれな疾患ですので、薬などの治療開発が遅れがちです。当院では難治な骨・軟部腫瘍に対する新しい治療方法の開発に取り組んでおり、実験的に青色LED光が滑膜肉腫(かつまくにくしゅ)という肉腫の増殖を抑制することを見出しました(図4)。将来の臨床応用をめざしています。

図4 青色LED光による肉腫への抗腫瘍効果

骨・軟部腫瘍の治療方法は?

骨・軟部腫瘍に明らかに有効な予防方法はありません。痛み、しこりがあればまず画像検査を行って、腫瘍があるかどうかを調べることが重要です。

がん検診は間接的に転移性骨腫瘍の発見につながることがありますので、定期的に受けることをおすすめします。

執筆者

整形外科 総務医長・特任准教授 西庄 俊彦

※執筆者の所属・役職は書籍発刊時(2024年3月)のものです。

整形外科の特徴

診療科長・教授 西良 浩一

※所属・役職は書籍発刊時(2024年3月)のものです。

特色

当科の現在の特色は、先端的な機器を用いた手術と内視鏡などを用いた低侵襲(体への負担が少ない)手術です。加えて、リハビリテーションや検診にも力を入れています。

また徳島県内唯一の四肢軟部肉腫情報公開専門施設として骨・軟部肉腫治療を行っています。2022年の手術実績は総数792件で、脊椎疾患が396件、下肢人工関節151件、スポーツ疾患57件、腫瘍85件(うち悪性33)です。

主な対象疾患

頸椎症性脊髄症、胸髄症(きょうずいしょう)、腰部脊柱管狭窄症(きょうさくしょう)、腰椎分離症、変形性関節症、前十字靭帯(じんたい)損傷、野球肘(ひじ)、骨・軟部肉腫、転移性骨腫瘍など

参考URL

この記事をシェアする
この記事の内容