包括的高度慢性下肢虚血とは?
喫煙(きつえん)の習慣や糖尿病(とうにょうびょう)、高血圧(こうけつあつ)、脂質異常症(ししついじょうしょう)、あるいは透析を受けていることが原因となり、動脈硬化(動脈の壁が肥厚(ひこう)して硬くなること)が進行すると足先への血流が低下します。重症になると安静時の痛みや足の指になかなか治らない傷ができます。
さらに、足の神経が障害されると感染しやすくなり、下肢(かし)の切断に至るような危険な状態を包括的高度慢性下肢虚血(ほうかつてきこうどまんせいかしきょけつ)といいます(図1)。切断を回避し、歩行を守るためには早期の診断と適切な治療が大切です。
包括的高度慢性下肢虚血はどんな症状ですか?
足先への血流が低下すると、はじめは歩行時に足が痛くなり、次第に安静時にも強い痛みが現れるようになります。足先が紫色から赤黒く変色し、指先に傷ができることもあります。
神経が障害された糖尿病の患者さんは、足に傷ができても分からず、感染が拡大して重症化しやすいことが特徴です。そのまま放置していると、下肢を切断したり、命にかかわることもあります。
また、この病気では心臓や脳の血管も障害されていることが多くあるため、心筋梗塞(しんきん こうそく)や脳梗塞(のうこうそく)にも注意が必要です。
包括的高度慢性下肢虚血の検査・診断方法は?
上腕(じょうわん)と足首で計測した血圧の比率をABI(足関節上腕血圧比(あしかんせつじょうわんけつあつひ))といい、この値が0.9以下では下肢の血管の狭窄(きょうさく)や閉塞(へいそく)によって血流が低下しており、特に0.7以下は重症と診断します。
しかし、動脈硬化が強い場合は見かけ上、正常の値をとることもあるため、SPP(皮膚灌流圧(ひふかんりゅうあつ))と呼ばれる皮膚表層の毛細血管の圧力も測定します(図2)。
この値が30~40 mmHg未満では傷の治りが悪いことから、虚血(きょけつ)(血流が乏しい状態)の診断や治療効果の判定に用いられます。
これらの検査以外にも、超音波検査やCTA検査(血管を描出する造影剤を用いたCT検査)、さらに下肢の血管造影(けっかんぞうえい)検査を行い、どこの血管が狭くなって足先にどの程度の血が通っているのか、という詳しい診断をします。
足に傷がある場合は、血液検査やレントゲン検査、MRI検査を行って、感染の状況を確認します。
包括的高度慢性下肢虚血の治療方法は?
足の血流を増やすための血行再建術(けっこうさいけんじゅつ)と、足の傷に対する治療が主な治療法になります。
血行再建術にはEVT(血管内治療)と血管バイパス術の2つの方法があります(図3)。
EVTは狭くなった血管を内側から拡張する方法で、血管バイパス術に比べて低侵襲(体に負担の少ない)ですが、完全に閉塞した血管では難しいことがあります。
血管バイパス術は、別の場所から血管を採取し、狭くなった血管を飛び越えるように採取した血管を移植して足先に血液を送る手術です。全身麻酔で行うため負担は大きくなりますが、一般的にEVTよりも長期の開存(かいぞん)(拡張が維持されている状態)が期待できます。
傷の治療には、虚血や感染の程度に応じてさまざまな軟膏や創傷被覆剤(そうしょうひふくざい)(傷の治りを助ける材料)、局所陰圧閉鎖療法(きょくしょいんあつへいさりょうほう)(傷に陰圧をかける管理方法)などを用いますが、大きな傷では皮膚移植や、脂肪や筋肉を皮膚と一緒に移植する遊離皮弁(ゆうりひべん)手術を行い、少しでも足を長く温存します(写真)。
包括的高度慢性下肢虚血の予防方法は?
たばこに含まれるニコチンは血管を収縮させるため、禁煙が重要です。
糖尿病や高血圧、脂質異常症、ならびに透析は症状を悪化させる原因になるため、早期からの内科的治療と規則正しい生活習慣が推奨されます。
足の感覚が鈍くなっている場合は、傷ができないよう自分の足の形に合った靴を選ぶことや、深爪(ふかづめ)しないなどの注意が必要です。特に高齢者では、タンパク質を含んだ栄養の摂取や、運動によって筋肉量を維持することも大切です。
形成外科・美容外科の特徴
診療科長・教授 橋本 一郎
※所属・役職は書籍発刊時(2024年3月)のものです。
特色
形成外科・美容外科では、口唇口蓋裂センターや下肢救済・創傷治癒センターとも協力し、顔や手足に生じる先天異常やなかなか治らない傷、体表の腫瘍、事故やがんで失われた組織欠損の再建などに対し、さまざまな手法と特殊な技術を駆使し、機能と形態ならびに整容性の向上をめざして治療しています。そのほか、生まれつきのあざや加齢性のしみにも専用のレーザーで治療しています。
主な対象疾患
唇顎口蓋裂(しんがくこうがいれつ)、小耳症(しょうじしょう)、多指(趾)症、難治性潰瘍、糖尿病性足潰瘍、皮膚腫瘍、軟部腫瘍、顔面骨骨折、熱傷、肥厚性瘢痕(ひこうせいはんこん)・ケロイド、頭頸部四肢再建、乳房再建、血管腫・血管奇形、加齢性色素斑、リンパ浮腫、眼瞼下垂症、顔面神経麻痺(まひ)など