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麻酔科

Q20:全身麻酔を受ける患者さんの術前・術中・術後の診療

この記事の内容

全身麻酔とは?

ある程度大きな手術を受ける患者さんは全身麻酔が必要です。全身麻酔は単に薬で眠っているだけではありません。眠っていても痛いことをされると覚醒(かくせい)したり、体が動くと危ないことが起こるため、眠る薬、痛みをとる薬、動きを抑制する薬、主にこの3種類の薬を投与して全身の管理を行います。麻酔中は手術による出血やいろいろな合併症が生じたり、麻酔薬の影響で血圧低下や呼吸抑制が起こるため、麻酔科医が患者さんの安全を守っています。

全身麻酔ではどのような薬を用いて、私たちはどうなるのですか?

眠るための薬(鎮静薬)として、静脈麻酔薬(点滴から投与する薬)(写真1)と吸入麻酔薬(酸素とともに呼吸のガスに混ぜて投与する薬)を使用します。必然的に手術では痛みを伴うため、痛みをとる薬(鎮痛薬)を投与する必要があります。

写真1 静脈麻酔薬の投与

基本的には点滴から数種類の鎮痛薬を投与して、痛み刺激による有害事象(血圧や心拍数の増加など)を抑えます。

手術によっては、硬膜外(こうまくがい)麻酔(ますい)や末梢神経(ましょうしんけい)ブロックといった痛みを感じる神経を、一時的に遮断する処置を行うこともあります。対象となる神経の近くまで針を刺し、局所麻酔薬を注入します。また、手術中、動くと危ないため筋弛緩薬(きんしかんやく)(筋肉の動きを弱める薬)を投与して、不意に動くことを防止します。

これらの薬を投与すると、体にはさまざまな影響が現れます。まず、意識はなくなります。そして薬のせいで一時的に自分で呼吸ができなくなります。そのため手術中は、口からチューブを入れて人工呼吸を行います。また、麻酔薬の影響や出血などが原因で、手術中は血圧や脈拍が変動したりします。

手術中は安全ですか?

手術中は患者さんの安全が担保できているか、いろいろなモニターを装着して絶えず監視し、必要があれば調整を行っています。

これらのモニターには、血圧計、心電図、体温計、パルスオキシメーター(指にセンサーを貼り血の中の酸素飽和度を測定する器械)、カプノメータ(呼気中の二酸化炭素分圧を測定する器械)、脳波モニター(意識状態の程度を確認する器械)、筋弛緩モニター(筋弛緩の程度を評価する器械)は必須で、状況により追加されていきます(写真2)。

写真2 心臓手術での超音波ガイド下中心静脈カテーテル挿入

手術中、ふつう患者さんは眠っていますが、麻酔科医、看護師、臨床工学技士がチームで患者さんの状態を観察して全身管理を行っています。

最近の麻酔薬は切れ味が鋭く、投与するとすぐに効いてきて、手術中は流し続け、手術後、投与を中止すると通常は30分程度で覚醒して麻酔薬の体への影響は消えてなくなります。

手術後の痛みはどうなりますか?

手術中に使用する鎮痛薬は、手術後すぐに切れてきます。そのため手術の大きさや患者さんの状態により変わりますが、基本的には術後鎮痛のための鎮痛薬を手術中に投与します。これは、副作用が少なく作用時間が長いものです。

これだけでは不十分な手術では、末梢神経(まっしょうしんけい)ブロックなど局所麻酔薬を用いて神経を一時的にブロックします。

さらに、体に大きな負担がある手術では、硬膜外麻酔や点滴から医療用の麻薬などを2日程度持続的に投与する方法をとる場合があります。なお、薬の副作用があるので、その適用は慎重に行っています。

持続投与を行う場合は、当院では非常に小型の機械式のポンプを使用しています(写真3)。このポンプは私たちが設定した投与量で鎮痛薬が注入されるだけでなく、PCA(Patient Controlled Analgesia)と呼ばれるボタンがあり、患者さんがそのボタンを押すことで鎮痛薬が追加で入っていきます。

写真3 超小型PCAポンプ

当院では、それらの情報が院内の電子カルテに自動的に反映されるようになっており(写真4)、医師や看護師が情報を確認できます。PCAポンプを装着した患者さんは、手術翌日などに術後疼痛管理(じゅつごとうつうかんり)チームが痛みの具合や合併症などを聞きに行き、必要に応じてさまざまな調整を行います。

写真4 PCAデータ転送の一部

すべての患者さんに共通なこととして、手術直後は痛みがゼロになることはありませんが、鎮痛薬を上手に使えばある程度痛みは抑えられます。痛みがひどい場合には、いち早く看護師に申し出てください。

執筆者

麻酔科 診療科長・教授 田中 克哉

※執筆者の所属・役職は書籍発刊時(2024年3月)のものです。

麻酔科の特徴

診療科長・教授 田中 克哉

※所属・役職は書籍発刊時(2024年3月)のものです。

特色

当院は手術室が14室あり、麻酔科管理症例は10例同時並行で手術を行っています。2021年度の手術件数は6,710件で、麻酔科管理症例は4,772件です。他の国立大学病院と比べて全身麻酔での手術の割合が4番目に高い(2020年度)のが特徴です。これは外科系の医師が自ら麻酔する比率が低く、麻酔の専門医に依頼し、当科で円滑に応えていることを示しています。また、在室時間と手術時間の差が約61分であり、全国の国立大学病院の中で2番目に短くなっています(2020年度)。これは麻酔の導入や覚醒がスムースで無駄がないことを表しています。当科では術後疼痛管理チームが使用している最新のPCAポンプを全国に先駆けて採用し、データを電子カルテにWi-Fiを介して送信するシステムを導入するなどIT化に力を入れています。

主な対象疾患

全身麻酔で手術を受けるすべての患者さん 
新生児の赤ちゃんから100歳過ぎのご老人まで

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