小児IgA腎症とは?
子どもの慢性糸球体腎炎(まんせいしきゅうたいじんえん)で最も多いIgA腎症は、多くが学校検尿で見つかります。初期は無症状であることが多いですが、長期の経過では腎機能が低下することがあります。免疫グロブリンの一つであるIgAが腎臓の糸球体(しきゅうたい)にあるメサンギウム領域に沈着し、炎症を起こします。診断には腎臓の組織を針で採取して病理診断を行う腎生検(じんせいけん)1をします。治療にはレニン・アンジオテンシン系阻害薬やステロイドなどの免疫抑制薬を使用します。
小児IgA腎症はどんな症状ですか?
小児のIgA腎症はほとんどが無症状で、70~80%が学校検尿で気づきます。咽頭炎(いんとうえん)や扁桃炎(へんとうえん)などの感染症時に肉眼的血尿を起こして発見されることもあります。
また、まれに高血圧や浮腫(ふしゅ)(むくみ)が見られます。ゆっくりと進行するため10年、20年後には腎不全になることもあります。
腎不全が進むと電解質異常や貧血がみられ、透析などの腎代替療法が必要となります。
小児IgA腎症の検査・診断方法は?
尿検査では、潜血がほぼすべての患者さんでみられます。尿タンパクや円柱といった腎疾患の目安となるものもよく見られます。血液検査では血清IgAが高くなることがありますが、必ずしもそうではありません。
確定診断には、腎生検という腎臓の組織を採取して顕微鏡で病理学的に評価する検査をします。
腎生検(写真1)は背中から超音波を当てて、腎臓の位置を確認しながら局所麻酔をしたのち、針を刺して腎臓の組織を採取します。小さなお子さんの場合は、手術室で麻酔科の医師が全身麻酔をかけた後で行います。
組織学的な特徴としては、腎臓の中にある尿をこし出す糸球体が炎症を起こしており、糸球体のメサンギウム領域へのIgAの沈着を証明することで診断が可能です(写真2)。
当科では、IgA腎症の病気の状態に関係するサイトカインやレニン・アンジオテンシン系の構成因子をバイオマーカーとして測定し、重症度や治療方法の決定に利用しています。
レニン・アンジオテンシン系は全身の血圧や血流量を調整する制御の仕組みですが、腎臓での反応が活発になると腎障害を進行させます。そのため、腎臓内でのレニン・アンジオテンシン系の活発さを評価すると、病気の進み具合を推測することが可能です。
小児IgA腎症の治療方法は?
軽度の尿タンパクで腎生検による病理組織型の炎症が強くない軽症の場合は、レニン・アンジオテンシン系阻害薬を使用します。高度な尿タンパクや、病理組織検査でメサンギウムの細胞増多(増えて多くなること)や半月体形成などの炎症が強い重症例では、レニン・アンジオテンシン系阻害薬にステロイドなどの免疫抑制薬を追加します。
扁桃炎による血尿発作を繰り返す場合は、扁桃腺摘出術を行うこともあります。当院では、他の科と共診することによって、どの治療方法も選択が可能です。
治療効果判定には尿検査や血液検査、再生検による病理組織学的評価、さらに前述したバイオマーカーの測定を行います。
学校検尿で発見された小児のIgA腎症は、早期に診断して適切な治療をすることで将来の腎不全を防ぐことができます。
小児IgA腎症の予防方法は?
IgA腎症の原因はまだはっきりと分かっておらず、そのため発症を予防する方法はありません。
ただ感染症にかかったときに肉眼で血尿が見られることもあるため、感冒(かんぼう)(風邪(かぜ))などにはなるべくかからないように普段から体調の変化に注意することは大切です。
また、治療が始まったら腎臓に負担をかけないようにするために、バランスの取れた食事と規則正しい生活を心がけることも重要です。そうすることで腎機能の悪化を抑えることが可能です。
- 生検/患部の一部を採取して、顕微鏡などで調べる検査 ↩︎
小児科の特徴
診療科長・教授 漆原 真樹
※所属・役職は書籍発刊時(2024年3月)のものです。
特色
小児科は子どもたちの総合医です。当科は①腎臓・膠原病、②循環器、③新生児、④アレルギー、⑤神経精神、⑥血液・悪性腫瘍、⑦内分泌・代謝、の7つの専門グループに分かれており、幅広い小児疾患に対応しています。そして病気の治療だけでなく、発育や発達もケアできる成育医療を心がけています。治療の途中でもできる限り学校生活も送り社会性を身につけてもらうように配慮します。
慢性疾患の場合は成人科と連携し移行医療も進めており、生まれてから大人へと成長し次世代へとつながっていくライフサイクルを支える診療をめざしています。
主な対象疾患
腎炎、ネフローゼ症候群、先天性腎尿路奇形、先天性心疾患、不整脈、川崎病、低出生体重児、早産児、食物アレルギー、てんかん、自閉症、学習障害、急性白血病、脳腫瘍、神経芽細胞腫、糖尿病、肥満、低身長、先天性代謝異常症、など。徳島県内の小児全般の診療を担当し、近隣の自治体からの紹介や里帰り分娩なども引き受けています