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救急集中治療科

Q27:患者さんの救命と社会復帰を支援する敗血症診療

この記事の内容

敗血症とは?

敗血症とは、細菌やウイルスに感染することで強い炎症が起き、さまざまな症状が出る病気です。適切に治療が行われないと全身の臓器が障害され、死に至ります。世界で年間4,900万人が敗血症にかかり、1,100万人が亡くなっています。また、世界中の死者の5人に1人は敗血症が原因で死亡しており、死因としてはがんを上回るともいわれています。敗血症の原因として、肺炎、尿路感染、腸管感染などが多く、病原体としては細菌が多くを占めます。

敗血症はどんな症状ですか?

敗血症では、全身の主な臓器(脳、肺、心臓、腎臓、肝臓、消化器、血管)の機能が低下し、さまざまな症状が現れます。

発熱、意識がもうろうとする、息苦しい、血圧が低い、手足の色が悪い、尿が出ない、黄疸(おうだん)が出る、出血が止まりにくい、などです。

敗血症の検査・診断方法は?

何らかの感染症が疑われ、かつ、①意識がおかしい、②血圧が低い(収縮期血圧100mmHg以下)、③呼吸が速い(呼吸回数が22回╱分以上)のうち、2つ以上が該当する場合に敗血症が疑われ、血液検査、画像検査、細菌培養検査などから総合的に診断します。

敗血症の治療方法は?

抗菌薬による感染症の治療のほか、敗血症性ショックと呼ばれる命の危険が迫っている状態となっている場合も多く、ショックへの治療を行い救命に全力を尽くします。人工呼吸器や血液透析、体外循環装置(ECMO(エクモ))を使用する場合もあります(写真1)。

写真1 ECMOによる循環・呼吸の補助

集中治療室内には、患者さんから採取した検体に特殊な染色を施して、直接顕微鏡で病原菌を診断することで一刻も早く適切な抗菌薬の選択を可能とするシステムや、各種ウイルスの遺伝子検査装置により、ウイルス感染から重症患者を守るシステムも確立しています(写真2)。

写真2 集中治療室内で実施される病原菌診断(左)と各種ウイルスの遺伝子検査装置(右)

敗血症は回復までに時間がかかるため、治療中に体力や認知力が弱り、さまざまな合併症を引き起こす可能性があります。

そのため、適切な全身管理(呼吸・循環・脳機能の管理、痛みやストレスの緩和、栄養管理、リハビリなど)を絶え間なく実施して病気からの回復を促していき、合併症を予防することが重要です。

近年では、重篤な疾患から救命できても、その後の身体機能、認知機能、精神機能、そして患者さん家族のメンタルヘルスまでもが著しく障害される集中治療後症候群(Post Intensive Care Syndrome: PICS)が注目されています。

集中治療後症候群(PICS)は、集中治療室で治療される患者さんの半数近くがかかるという報告もあります。

当科では、重症患者さんの救命のみならず、このPICSを予防し、社会復帰までを念頭に置いた重症管理を展開しています(写真3)。

写真3 集中治療室での離床の様子。高度医療機器装着中でも多職種が共同して実施し、PICS予防に努めている

敗血症の予防方法は?

特に高齢者や慢性疾患、免疫抑制薬の内服中などの場合は、感染症が重症化する可能性があり注意が必要です。

執筆者

救急集中治療科 診療科長・教授 大藤 純

※執筆者の所属・役職は書籍発刊時(2024年3月)のものです。

救急集中治療科の特徴

診療科長・教授 大藤 純

※所属・役職は書籍発刊時(2024年3月)のものです。

特色

当科は、他の医療機関では対応が難しい重症患者を受け入れる“最後の砦”としての役割を担っています。救急科・集中治療科専門医の資格を持った医師が多数所属し、集中治療認定看護師や特定行為看護師を中心とした専門性の高い看護スタッフ、臨床工学技士、薬剤師、栄養士、理学療法士と共に高度な診療を展開しています。

集中治療室(ICU 10床、HCU 11床)には、高性能な生体モニター(写真4)や人工呼吸器、補助循環装置などの医療機器も充実し、世界水準での重症管理が実践されています。ICUでは年間約700症例、HCUでは年間約1,500症例の重症患者さんを受け入れています。また新型コロナウイルス感染症の流行期には、県内唯一の重症患者受け入れ施設として100症例を超える重症患者さんを受け入れてきました。

写真4 電気インピーダンストモグラフィーによって肺の動きまで評価する優れた人工呼吸管理

主な対象疾患

敗血症、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、広範囲熱傷、急性呼吸不全、急性冠症候群、脳卒中、中毒、大手術後患者、小児重症患者、新型コロナウイルス感染症(重症患者)など

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