むし歯治療とは?
現代のむし歯治療は、技術の進化とともに大きく変化しています。早期の診断と治療がむし歯治療の基本となりますが、症状や進行状況によっては長期にわたる継続的な管理とケアがさらに重要になることがあります。
特に、難治性の症例(治りにくいむし歯)に対しては、患者さん一人ひとりの状態に合わせた、時間をかけた丁寧な治療が求められます。当科では、先進的な設備と最新の研究成果を活用し、それぞれの患者さんに最適な治療を提供することを心がけています。
むし歯とは何ですか?その進行過程について教えてください
むし歯は、口腔内の細菌が作り出す酸が、歯の硬い組織を侵す疾患です。初期のむし歯では、細菌が歯の内部に到達していないため、痛みはほとんどありません。しかし、むし歯が進行すると、細菌はエナメル質から象牙質(ぞうげしつ)へと侵入し、この段階で冷水痛などの症状が出始めます。さらに進行して細菌が歯髄(しずい)に到達すると、歯髄炎や根尖性歯周炎(こんせんせいししゅうえん)といった深刻な状態に陥る可能性があります(図)。
マイクロスコープ(歯科用の顕微鏡)を用いたむし歯治療のメリットは何ですか?
マイクロスコープを用いたむし歯治療は、従来の治療よりも高い精度での治療が可能となります。
コンポジットレジン修復(歯に近い色の樹脂で歯を修復する方法)では、マイクロスコープを使用して病変部を詳しく観察し、その部分だけを正確に除去します。その後、過不足なくコンポジットレジンを充填し磨くことで、自然な仕上がりが得られます。
また、根管(こんかん)治療にもマイクロスコープが大いに役立ちます(写真1、写真2)。例えば、むし歯が進行して歯髄まで細菌が侵入してしまったケースでも、マイクロスコープを使用することで根管を丁寧にクリーニングできます。これにより治療の見通しが向上し、より信頼性の高い治療が可能となります。
むし歯治療が難しいケースとは、どのような場合ですか?
むし歯治療が難しいケースとは、歯の奥まで感染が広がり、何度治療しても症状が改善しない状態を指します。また、根管治療後に咬合痛(こうごうつう)(かんだときの痛み)が消失しない場合などもこれに該当します。
このような状況では、治療期間が通常よりも長くなることが多く、何度も通院する必要が出てくることもよくあります。患者さんにとっては少し負担が大きいかもしれませんが、丁寧に治療を行うことで、より良い結果をめざします。(写真3に示すように、治療前の根の先にある黒い部分は感染した組織や炎症を示しています。根管治療が成功すると、この黒い部分が白くなり、正常な骨組織に置き換わります)
一方で、通常の根管治療では治らない場合、歯根端切除術(しこんたんせつじょじゅつ)などの外科処置が必要となることもあります。歯根端切除術とは、根の先の感染した組織や炎症を外科的に取り除く手術のことです。当科にはこのような高度な治療を行うための設備も整っており、最適な治療を提供しています。
大学病院でのむし歯治療はどのようなものですか?
大学病院では、一般の歯科医院での治療が困難なケースを主に扱っています。具体的には、かかりつけの歯科医院でむし歯治療を行っても改善しなかった方、歯科恐怖症で治療が難しい方、または基礎疾患を持っている歯科治療のリスクが高い方などが対象となります。
特に歯科恐怖症や基礎疾患のある患者さんに対しては、歯科麻酔科と連携し、治療中の全身状態のモニタリングや、精神鎮静法(せいしんちんせいほう)を使用した治療も行っています。また、研修歯科医師や臨床実習学生が診療に立ち会うことで、教育面でも高いレベルを維持できるよう心がけています。
ただ、治療の方法については一般的な歯科医院と大きく変わることはありません。むし歯治療は「細菌との戦い」であるため、ラバーダム(ゴム製のシート)(写真4)の使用や滅菌された器具の適切な使用など、基本的な手技に忠実で丁寧な対応が特徴です。
むし歯科の特徴
外来医長・助教 武川 大輔
※所属・役職は書籍発刊時(2024年3月)のものです。
特色
当科には歯科保存学の専門医や認定医が多く在籍しており、専門的な知識と技術力に基づいた診断と治療を行っています。保険診療だけでなく、自由診療についても充実しており、特殊コンポジットレジンを用いた審美修復やホワイトニング、ホワイトスポット治療などを専門的に行う歯科医師も在籍しています。さらに、大学としての研究活動を通じて、AIやビッグデータ、デジタルデンティストリーといった最新技術を活用し、先進的な医療をめざしています。
主な対象疾患
むし歯(う蝕(しょく))、歯髄炎、根尖性歯周炎、象牙質知覚過敏症、歯の着色・変色など