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矯正歯科

Q33:口唇口蓋裂患者に対する包括的歯科矯正治療~“ゆりかご”から“はかば”まで

この記事の内容

口唇口蓋裂(こうしんこうがいれつ)とは?

胎児がお腹(なか)の中で成長する過程で、顔は左右から伸びる突起が癒合(ゆごう)(接着)することによってつくられます。この癒合がうまくいかないと、その部位が離れたままで出生します。特に上唇が割れた状態を口唇裂(こうしんれつ)、口蓋(こうがい)(口の中の天井部分)が割れたままで口と鼻がつながっている状態を口蓋裂(こうがいれつ)、上顎(じょうがく)(上あご)の歯茎が断裂している状態を顎裂(がくれつ)といいます。出生直後から見た目が気になったり、哺乳(ほにゅう)・摂食・発音障害、不正咬合(ふせいこうごう)が生じやすく、あらゆる面からの治療が必要になります。

口唇口蓋裂はどんな症状ですか?

口唇口蓋裂(こうしんこうがいれつ)は、生まれたときに口唇、顎(あご)、口蓋が割れた状態にあるため、哺乳・摂食障害が現れます(写真1)。

写真1 口唇裂・口蓋裂

特に口蓋裂では口と鼻とがつながっているため鼻咽腔(びいんくう)(鼻の奥の空間)が食べ物で汚染されやすく、中耳炎(ちゅうじえん)や扁桃炎(へんとうえん)を生じ、聴覚や発音機能に異常をきたす恐れがあります。

加えて、出生直後から複数回の形成手術を受けなくてはならないことから、上顎の成長不足が生じ、受け口になりやすいことが知られています。

上顎に割れ目が存在すると、その割れ目に面した歯が倒れ、歯のガタガタが生じやすくなります。

口唇口蓋裂の検査・診断方法は?

口唇裂は外表奇形(がいひょうきけい)であるため、顔貌(がんぼう)(かおかたち)からの診断が容易です。顎裂、口蓋裂についても口内を観察することで診断は可能ですが、一見、口蓋に割れ目がないように見えても、粘膜下の筋肉の断裂が生じている場合(粘膜下口蓋裂(ねんまくかこうがいれつ))もあります。近年、出生前診断が可能となり、お腹の中にいる胎児の口唇口蓋裂についても診断が可能になりました。

口唇口蓋裂の治療方法は?

口唇裂・口蓋裂児が生まれると、生後3~6か月頃に口唇形成術を行う準備として、哺乳床(ほにゅうしょう)(プラスチック状の入れ歯のようなプレート)を用いた早期顎整形治療を行います(写真2)。

写真2 さまざまな種類の哺乳床

哺乳床にはお乳をうまく飲めるようにする効果以外に、顎の形を整え、舌の裂部への侵入を防ぎ、裂部の幅を狭くする効果があります。

従来、この哺乳床を製作するには、シリコン材を用いて乳児の口の中の型を取らなければいけませんでした。しかし、この行為はきわめて危険で、乳児を窒息させてしまうリスクのある行為でした。

さらに、生後2週間頃に口の型を取っても、哺乳床を装着できるのは早くとも1か月程度で、出生直後の哺乳床の効果が最も出やすい時期を逃していました。

このような背景のもと、当院では世界に先駆け、デジタル技術をフル活用した口唇口蓋裂児に対する超早期顎整形治療(がくせいけいちりょう)を開始しました(図)。

図 デジタル技術を用いた哺乳床製作

概要として、患児出生の連絡が入ると、矯正歯科医は口腔内スキャナーを持ってNICU(新生児集中治療室)に向かい、生後間もない乳児の小さな口の中をスキャナーによって撮影します。その後、3Dプリンターで印刷された模型をもとに哺乳床を迅速に製作します。

ここで力説したいポイントは、口腔内スキャナーを用いた口の中の撮影が、従来のシリコン材を用いた印象と比較してはるかに安全性が高いこと、出生から哺乳床装着までにかかる時間が4~12時間程度であり、きわめて速い超早期顎整形治療がほぼすべての患者さんに提供されていることです。

特に院内出生であれば、乳児の初回授乳にも間に合います。初回授乳でお乳がうまく飲めないという経験を与えないことで、その後の授乳も非常にスムーズに行えます。

その後、小学生低学年からは顎骨(がくこつ)の成長コントロールを目的とした第1期の矯正治療を開始します。

身体の成長ピークを過ぎる頃には、マルチブラケット装置を用いた歯列矯正治療(第2期治療)を開始し、歯並び・かみ合わせの改善を行います。残念ながら、上顎骨(じょうがくこつ)の著しい成長不良、あるいは下顎骨(かがくこつ)の成長が進んだ症例では上顎骨を前方に移動したり、下顎骨を短くして後方に移動したりすることを目的とした外科手術が必要になります。

“ゆりかご”から“はかば”まで、口唇口蓋裂を持って出生したすべての患者さんに対して、出生直後から成人までの安全安心な一貫治療を提供しています。

執筆者

矯正歯科 診療科長・教授 田中 栄二

※執筆者の所属・役職は書籍発刊時(2024年3月)のものです。

矯正歯科の特徴

外来医長・准教授 日浅 雅博

※所属・役職は書籍発刊時(2024年3月)のものです。

特色

当院を受診する口唇裂・口蓋裂児は年間10人前後です。徳島県民数と出生率、口唇裂・口蓋裂の発生率(550人に1人)から推測される県内の出生患者が10人以下であることを考慮すると、ほぼ徳島県下で出生したすべての患者のお子さんが当院を受診している計算になります。その他、年間約150人の一般的な不正咬合、同約15人の顎変形症患者(外科的手術が必要な症例)さんが当科にて矯正治療を受けています。

主な対象疾患

一般的な不正咬合、顎変形症、口唇口蓋裂に伴う不正咬合など

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