歯槽骨吸収とは?
歯がなくなると、歯を支えている顎の骨(歯槽骨(しそうこつ))が吸収(きゅうしゅう)して痩(や)せてしまいます(歯槽骨吸収(しそうこつきゅうしゅう))。そこに歯科インプラント治療をしたいときには、骨をつくる手術(骨造成手術(こつ ぞうせいしゅじゅつ))が必要です。従来は、自分の骨を移植していましたが、最近、当科が中心となって開発、実用化した新しい人工骨(炭酸アパタイト)をインプラントの骨造成手術に使用することが認可されました。この炭酸アパタイトを使った骨造成手術は、自分の骨を採取する必要がないため、患者さんの負担は大幅に軽減されます。
歯槽骨吸収はどんな症状ですか?
歯周病やむし歯によって歯を失った患者さんには、古くから入れ歯やブリッジによる治療が行われてきましたが、今や歯科インプラント治療もごく一般的な治療として普及しています。
歯科インプラント治療は、顎(あご)の骨(歯槽骨)に人工歯根(じんこうしこん)を埋め込み、人工の歯をかぶせる治療方法です(図1)。
しかしながら、歯を失ってから長い年月が経過すると、歯槽骨が痩(や)せてしまい、人工歯根を埋められるだけの土台がなくなってしまいます。
超高齢社会を迎えた今、このような顎の骨の吸収(歯槽骨吸収)のために、残念ながら安定した歯科インプラント治療を受けることができない患者さんが増えています。
歯槽骨吸収の検査・診断方法は?
歯周病やむし歯の治療を行う際に撮影するレントゲン写真で偶然見つかることもありますが、基本的には、インプラント治療を計画する際のレントゲン写真やCT検査で、インプラントを埋める場所の歯槽骨が吸収しているかどうかを確認します。
歯槽骨吸収の治療方法は?
歯槽骨が吸収した場所にインプラントを埋めるためには、インプラント手術に先立って骨をつくる手術(骨造成手術)が必要です。
従来は、体の他の部位から採取した自分の骨を移植する自家骨移植(じかこついしょく)を行っていましたが、人体の健康な部分にメスを入れ、骨を切り取る必要があるため、特に高齢の患者さんにとっては大きな負担になっていました。そうした問題を解決する方法として、最近は人工骨を使った骨造成手術が増えています。
人工骨の中でも、ハイドロキシアパタイトという成分からできた人工骨がこれまで多く使われてきましたが、体の中でほとんど吸収されず長期間にわたって体内に残るため、ときに異物となって細菌感染の温床(おんしょう)になることもありました。
そこで当科では、もっと人の骨に近く、本物の骨に置き換わる人工骨の研究開発を九州大学と共同で進め、人の骨の主成分である炭酸アパタイトの人工合成に成功しました。そして、炭酸アパタイトからできた新たな人工骨は臨床治験を経て実用化され、2018年から患者さんに使用できるようになりました。
この炭酸アパタイト人工骨は、歯科インプラント治療に使える人工骨として、国内では初めて厚生労働省から正式に認可を受けた材料で、将来的に自分の骨に置き換わる優れた性質を持っています。
インプラントを埋めるための骨が足りない場合でも、自家骨を採取することなく自分の骨を増やすことができます(図2)。患者さんの身体的な負担が大きく軽減されるため、今後は歯科領域だけでなく人体のあらゆる部位に応用されることが期待されます。
歯槽骨吸収の予防方法は?
歯槽骨の吸収を防ぐためには、歯を失わないようにすることが一番大切です。
事故やケガ、腫瘍の治療などのために歯を失うことはありますが、まずは、歯周病やむし歯にならないようにご自身のお口の中を清潔に保つようにしてください。
また、かかりつけ医を持つこともおすすめします。定期的に専門的なチェックを受けることで、歯を失うリスクは減ります。
不運にも歯を失ってしまった患者さんで、インプラント治療を希望される場合にも、まずはかかりつけ医を受診して検査を受けてみてください。検査次第では、今回ご紹介した骨造成手術をせずにインプラント治療が可能なこともあります。
口腔外科の特徴
診療科長・教授 宮本 洋二
※所属・役職は書籍発刊時(2024年3月)のものです。
特色
口の中には歯以外にも歯肉(しにく)、頬粘膜(きょうねんまく)などの軟組織(なんそしき)や舌(ぜつ)、唾液腺(だえきせん)といった臓器があります。また、歯を支えている歯槽骨や顎骨(がっこつ)(上顎骨(じょうがくこつ)、下顎骨(かがくこつ))、口の開閉に重要な役割を果たす顎関節といった特徴的な構造があります。口の中の感覚はとても敏感で、わずかな障害でも食事や会話などの日常生活に大きな支障をきたすことがあります。
心臓等の循環器、肺や気管などの呼吸器、胃腸などの消化器などの臓器に病気ができるように、口の中にも病気ができます。口腔外科ではこうした部位に発生した腫瘍、炎症、外傷などの疾患について専門的な立場から診断と治療を行っています。
主な対象疾患
埋伏智歯(まいふくちし)・智歯周囲炎、口腔の腫瘍・嚢胞性疾患、口腔粘膜疾患、口腔の外傷・顎骨の骨折、歯科インプラント、顎変形症など